ID-011 潤滑油基油の蒸留曲線について
 
 ガソリンや灯油、軽油といった燃料油は単体の物質ではなく、非常に多くの炭化水素化合物の集合体です。これは、原油を加熱・蒸留し所望の留分を取り出して製品とすることに由来します。従って、蒸留曲線はその留分中に存在する多くの炭化水素化合物の沸点と含有量に左右されることになりますので、ガソリンや軽油の品質(性能)を知るためにはきわめて重要な試験です。
 
 潤滑油基油も多数の炭化水素化合物の集合体という点でまったく同様ですが、原料は原油から軽質燃料油分を取り去った「常圧蒸留装置の残さ油」になります。これを再度加熱し減圧蒸留することによって、潤滑油基油が得られます。図1および図2は燃料油と潤滑油基油の蒸留曲線の概略図です。実際には生成装置の特性や原油の得率などにより若干幅が出てきます。潤滑油の場合はさらに製品の性能を配慮した取り方をしますので各社基油に差異が生じます。
 

 
図1 燃料油の蒸留曲線の例

 
図2 潤滑油の蒸留曲線の例
 
 潤滑油の場合、取り出す目標粘度が明確ですから、全体のバランスを見ながら幅広い留分を取って粘度を調整するか、所定の粘度近傍の狭い留分を取るか、といったことが可能です。これは、蒸留曲線に反映しますが市販される潤滑製品は単一の基油だけでなく、幾種類かを調合しますので製品からは解らないことがあります。
 
 一般には、ある程度の幅を持った取り方をしますが、製品によっては狭い留分の方がより好ましい場合があります。例えば真空ポンプ油や放電加工油などは、低粘度留分は揮発性が多く、揮発分を極力抑えるためには所定粘度の留分だけで構成される方が望ましい訳です。しかし、留分を狭めることはそれだけ得率が下がりますからコストアップに繋がりこの面では短所になります。
 
 蒸留曲線での潤滑油に及ぼす影響についてまとめますと次のようになります。
 
 
 一方、合成潤滑基油の中には単一物質に近い構成の場合があり、この場合は蒸留曲線はより横ばいの曲線になります。
 
 蒸留曲線は燃料油、ことにガソリンや軽油では気化性・着火性・燃焼特性などに、十分な意味を持ちますが、潤滑油の場合、前途したような特殊な製品を除くと複数の基油の採用や添加剤によって補うことができますので、あまり重要とされていませんでした。近年になって自動車の省燃費性が重要視され、エンジンオイルも低粘度化してきました。オイルの低粘度化は蒸発損失が増加するため、エンジンオイルの規格に蒸発損失量の上限(NOACK値等)が盛り込まれるようになりました。
 
 このため、蒸発特性を見るために蒸留試験が行われることもあります。
 
 

 
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