ID-S76 油中泡の除去技術について
 
 
1.従来技術
 
 泡の問題を避けるには当然のことながらまず気泡の生成や空気溜りのできにくい設備構造にすることと、気泡を生成しにくく、かつ放気しやすい作動油を使用することが望まれます。
 
 設備の構造に関しては巻込みのない配管構造、空間の制限、完全なジョイントシール、放気に要する時間確保のためのリザーバー容量が重要です。
 
 リザーバーでの放気は内部に仕切板などを設け、リターンからサクションに至る間に気泡を分離させることが図られています。しかしながら種々の要因により限界があり、さらに設備の老朽化とともにシール部の不具合や摩耗によって初期の性能が維持できないことも覚悟しなければなりません。
 
 一方作動油の消泡性に関しては鉱油に非相溶のジメチルポリシロキサンなどのシリコーン系消泡剤を数十ppm添加し、泡沫の表面張力を低下させることにより破泡させるものが一般的です。しかしながら作動油の酸化劣化によって有機酸が生成し、消泡剤が溶解されて機能が低下したり、油中のスラッジに消泡剤が吸着されるなど、効果の持続性が課題となります。
 
 さらに油中に分散する気泡の放気に関しては、シリコーン系消泡剤はむしろ悪影響を及ぼすことが知られています。次世代の作動油の開発の課程で消泡剤や放気性に関する新たな検討が期待されます。
 
2.新しい技術
 
 従来の物理的あるいは化学的な泡対策にはいずれも限界があり、いくつかを併用することによって効果を補ってきたが、特に油中の気泡除去に関しては有効な手段がなかったとも言えます。
 
 そのような背景の中で近年油中の気泡を強制的に分離する「サイクロン型気泡除去装置」2)が市販され、潤滑油分野のみならず多くの分野で注目されています。
 
 この装置は気泡を含む液体をサイクロン室に導入し、旋回流を与えその遠心力により気泡を分離するもので、基本的な原理は図1のとおりです。
 

 
図1 サイクロン型気泡除去装置の原理
 
 
 すなわち入口より導入された気泡を含む液体は3次元的な旋回流となって角速度を与えられ、その遠心力によって密度が小さい気泡部は中心部に集合し、気泡が除去された液体は外周に押し付けられ出口から排出され系内に戻されます。中心部に集合した気泡は一部の液体とともに系外もしくは放気室に導かれ放気した液体が系内に戻されます。
 
 この装置を油圧系統に適用する場合には流量変動、油圧のレベルを十分考慮する必要があり、一般には油圧ポンプ吸入側に中間タンクを設けてその前に気泡除去装置を設置するか、側流系に設置することが望ましいです。図2および図3はサイクロン型気泡除去装置50型による油圧作動油に混入した場合の気泡分離率に及ぼす流量の影響、圧力損失に及ぼす気泡含有率の影響を見たものですが3)、最適な気泡除去率を得るには圧力損失、流量低下を考慮に入れた選定が重要であることが分かります。
 

 
図2 気泡分離率に及ぼす流量の影響
条件;粘度=10cSt、気泡含有率=0.05
 
 

 
図3 気泡除去における圧力損失の変化
条件;粘度=10cSt、気泡径=60〜110μm
 
 
 この装置は潤滑油以外の各種の液体中の気泡の除去にも適用可能で、化学、電機、製紙、窯業など多くの工業分野において原材料調整、製造工程に気泡除去効果を表し、機器の信頼性向上、生産性の向上はもとより、省エネルギー、環境保全に貢献しています。さらに最近では薬品、食品などにも適用分野が広がりつつあり、今後一層の展開が期待されています。

「出典」
特集 フルードパワーシステムとトライポロジ 月刊トライボロジ1999-2003.9 P27
 
 

 
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