ID-L029 船舶の補機と潤滑油について
 
 船舶には、動力源となる主機関の他に発電機用や荷役用のクレーン類、操舵機や揚錨機など航海中や停泊・荷役中に必要な各種の設備機械を装備しています。
 
 これら多種多様な設備機械の中で配電機器設備や電子機器類を除いたものを『補機』と称しています。
 
 補機類はその用途に応じて以下のように分類されますが、船舶の種類(客船、貨物船、タンンカー、漁船等)や航行海域(平水、沿海、遠洋)等によって大きく異なります。また、使用する潤滑油類も限られた船内を有効に活用するために極力統一すること、かつできるだけ入手し易い(ワールドワイドな)油種であることが求められます。
 
 機器メーカーも、できるだけこのような原則に沿って機械の設計を行うことになります。
 
〔1〕船舶の航行に必要な機器類
1.機関室  :発電機用原動機・空気圧縮機・油清浄器・舵取装置等
2.ブリッジ :操舵機・オートパイロット等
3.甲板機械他:揚錨機・係船機・バウスラスター・舷梯ウィンチ等
〔2〕乗組員の生活維持に必要な機器類
空調設備・冷凍冷蔵庫等
〔3〕荷役のために必要な機器類
デッキクレーン・ハッチカバー開閉機・荷役ポンプ・バラストポンプ・船倉冷凍機等
〔4〕その他
万能工作機・天井クレーン等
 実際に上記の機器類に適用される潤滑油類の例を表1に一覧表(潤滑油適油)に掲げました。
 
 これらの油種を決定(油種統合)する場合には、まずメーカーの推薦油種(リコメンド)が優先されます。陸上とは異なり万一の故障が人命に関わる大事故につながりかねないためで、絶対的な信頼性が求められます。
 
 次に同系の油種や粘度を調整して油種を統合してゆくことになりますが、この作業には船主(造船所)、機械メーカー、潤滑油メーカーが協力して誤りのないように努めます。
 
表1 補機類の種類と使用潤滑油の例
分類 機器名 潤滑部分 適用油種
発電用原動機 ディーゼルエンジン シリンダーシステム ディーゼルHD油
SAE30・
TBN10〜30
発電機 軸 受
主機原動機
発電機用原動機
非常用発電機
 等 附属機器
過給機 軸 受 添加タービン油  ※
調速機
(ガバナー)
油圧作動部 添加タービン油  ※
回転装置
(ターニングギヤ)
密閉歯車 SP系ギヤー油
開放歯車 ギヤコンパウンド
減速装置 密閉歯車 SP系ギヤー油  ※
主 軸 系 中間軸受 軸 受 主機システム油
船尾管
(スターンチューブ)
軸受・シール 主機システム油
可変ピッチプロペラ 油圧装置 油圧作動油
その他
機関室補機類
空気圧縮機 シリンダーシステム コンプレッサー油
油清浄機 密閉歯車 SP系ギヤー油
各種ポンプ類 軸受(潤滑油)
軸受(グリース)
添加タービン油
Li系グリース
送風機 軸受(潤滑油)
軸受(グリース)
添加タービン油
Li系グリース
操舵設備 オートパイロット 油圧作動装置
グリース給脂箇所
油圧作動油
Li系グリース
操舵機    
舵取装置    
甲板機械 揚錨機
(ウィンドラス)
油圧作動装置
 
密閉歯車
開放歯車
グリース給脂箇所
油圧作動油または
添加タービン油
SP系ギヤー油
ギヤコンパウンド
Li系グリース
係船機
(ムアリングウィンチ)
デッキクレーン
ハッチカバー開閉機
舷梯ウィンチ
その他 ライフボート エンジン 発電機用
ディーゼルHD油
万能工作機械 ギヤーボックス等 添加タービン油
天井クレーン グリース給脂箇所 Li系グリース
ワイヤーロープ 塗 布 ギヤコンパウンド
(注)※
表示油種の他、主機システム油が使用される場合がある。
 
補機用潤滑油類の粘度について
1. 添加タービン油:ISOVG32〜68
2. 油圧作動油:ISOVG32〜68(遠隔操縦装置用にはISOVG7〜10)
3. SP系ギヤー油:ISOVG150〜220
4. Li系グリース:2号
5. ギヤーコンパウンド:2号
 
なお、船舶の仕様により、EP剤添加品を使用したり、粘度番手が変更される場合があります。
 
 

 
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