ID-056 焼入れ液の冷却曲線

 鋼材に焼きを入れるポイントは、オーステナイトからの冷却中に起こる拡散変態をいかに阻止するかにあり、そのためにオーステナイト温度から約550℃をできるだけ早く冷却し、この間に拡散変態を起こさせないようにすることが重要です。また、焼き割れや歪みは、冷却中のマルテンサイト変態温度(Ms点)域で起こるため、Ms点付近ではむしろゆっくり冷却することが必要となります1)
 そのために焼入れ液の冷却能力を十分に把握しておくことが大切であり、冷却能力を評価する方法の1つに冷却曲線の測定があります。
 冷却曲線とは、「800〜900℃の一定温度に加熱した試験片を一定量の焼入れ液に浸漬して、試験片の温度と時間との関係を表した曲線」であり1)、この試験により、焼入れ液の冷却能力を相対的に比較できます。相対的にしか比較できないのは、この試験が以下に示したような様々な要因に左右されるためです。
 
【試験片】 材質、形状、表面状態、熱電対の設置場所、投入速度など
【焼入れ液】 液量、液温度、撹拌の有無、撹拌速度など
 もちろん、冷却能力を定量化するために種々の方法が考案されており、現在ではJIS−K2242をはじめ、ASTM−3520、NFT60178、ISO/DIS9550などの規格が制定されて活用されています2)
 これらの方法は、いずれも試験片の材質および形状、試験条件を規格化し、評価していますが、定量的とはいいながらも、その数値と実際の材料の焼入れ硬度との定量的な関係を求めるのは困難で、実際には定性的に利用されているのが通例です2)
 冷却曲線は焼入れ液の種類でも異なります。ここでは参考として、主に高周波焼入れで使用されるポリアルキレングリコール系水溶性焼入れ液の冷却曲線を示します(図1)。
図1 冷却曲線

 

 測定はISO9950に準じました。試験装置(ivf quenchotest)の概略図を図2に、試験条件を表1に示します。
 ポリアルキレングリコール系水溶性焼入れ液は濃度を高くすると、最大冷却速度が遅く、Ms点付近(300〜400℃)の冷却速度が遅くなっています。つまり、焼きが甘く、割れにくくなっているわけで、適度に濃度を調整することで、目的に応じた焼入れができることになります。

 

表1 試験条件
加熱方式 電気炉
加熱温度 850℃
試験片 Inconel Alloy 600
(φ12.5mm、60mm)
熱電対 K型、φ1.5mm
液量 400mL
液温度 35℃
液攪拌方法 スターラー
液攪拌速度 850rpm
 
 
図2 ivf quenchotest装置図

 
 
[参考文献]
  1)牧:熱処理、35,4,(1995)199
  2)冨田、朝田:熱処理、35,4,(1995)200
  3)池内:熱処理、35,4,(1995)206
 
 

 
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