ID-324 工業用ギヤー油の選定について
歯車とは、一つの軸から他の軸へ一定の速度比で回転運動を確実に伝える機械要素です。あらゆる分野で使用される歯車に用いる潤滑油は、どのように選択すればよいのか簡単に述べてみました。 | |
III. | 歯車は噛み合う二つの歯が「転がり−すべり接触」しながら移動し力を伝えます。 実際には歯先又は歯元で最大のすべりを生じ、かみあいピッチ点で“すべり”はゼロとなります。歯車の種類によって、この“すべり”量が大きく異なっています。 |
III. |
ギヤー油には、すべりによる摩擦や摩耗を低減するために極圧剤が添加されています。また、衝撃やすべりによる油膜切れを防ぐため高粘度油がよく使用されています。 最近では高温・高圧に対応するため合成系のギヤー油や二硫化モリプデンあるいはグラファイトなど固体潤滑剤を添加したギヤー油も使用されています。 | ![]() |
これらギヤー油に要求される一般的性能をまとめますと、
(1)耐荷重能が高いこと (2)熱および酸化安定性が良いこと (3)水分離性が良いこと (4)消泡性が良いこと (5)防錆性、腐食防止性が良いこと などが挙げられます。ギヤ油に添加される添加剤は上記のような特性を発揮できるものが選択され効率よく添加されています。
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III. | 工業用ギヤー油の一般的な規格は次のとおりです。 | |
1.JIS規格 (日本工業規格)
2.AGMA規格
3.MAS規格 | ![]() | |
これらはいずれも、粘度と極圧性能で分類されています。
JIS規格においては、
[表1]にはAGMA規格の一例を示します。 |
歯車装置の形式・寸法 | 低〜中荷重 | 中〜高荷重 | ||||
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周囲温度;℃ | 周囲温度;℃ | |||||
平歯車 | 減速段数 | 低速歯車 中心距離;mm |
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一段 | 200以下 | |||||
200〜500 | ||||||
500以上 | ||||||
二段 | 200以下 | |||||
200〜500 | ||||||
500以上 | ||||||
三段 | 200以下 | |||||
200〜500 | ||||||
500以上 | ||||||
遊星歯車 | ハウジング外形 400以下 | |||||
ハウジング外形 400以上 | ||||||
かさ歯車 | 円すい距離 300以下 |
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円すい距離 300以上 |
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ギヤモーター | − | |||||
高速歯車 | − |
表1 密閉式歯車装置のAGMA推奨潤滑油剤と動粘度 | ||
(注) | R&0は酸化防止剤と防錆剤添加油を、EPは極圧剤添加油を示す。 | |
ただし、それぞれの条件にあったギヤー油を選定しなければ歯車の破損につながりますので注意が必要です。ギヤー油の選定にあたっては、機械装置の取扱い説明書に従ってください。説明書が無い時は機器メーカーあるいは潤滑油メーカーにお問い合せ下さい。 | ![]() | |
IV. | 参考のため、歯車の種類および使用条件による油種のおおよその関係を[表2]に示します。 |
分類 | 歯車の種類 | 使用条件 | 摩擦形態 | 該当油種 |
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密閉式 | 平歯車・かさ歯車 | 軽荷重 | ころがり摩擦の他すべり摩擦を伴う すべり方向は接触線に対して直交 |
R&Oタイプ潤滑油 |
中荷重 | マイルドEPタイプギヤ油(兼用油) | |||
重荷重 | EPタイプギヤ油 | |||
ウォームギヤ | 全域 | 接触線または面全域ですべり摩擦が発生 | ウォームギヤ専用油 EPタイプギヤ油 コンパウンドタイプギヤ油 |
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ハイポイドギヤ | 全域 | 接触線全域で強いすべり摩擦が発生 | ハイポイドギヤ油 (極圧グレードに注意) |
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開放式 | 平歯車・かさ歯車等 | ギヤコンパウンド |
表2 歯車の種類と使用条件による油種の分類 |