ID-325 作動油の水分と劣化の関係について
私たちの身近にある水はなくてはならないものですが、逆にあっては困る、と言う場面もたびたびあります。自動車や工場で使用するほとんどの潤滑油も水は禁物です。 | ![]() |
1. | 水分が混入する原因について まず、水分がどのような経路で油中に混入するのかと申しますと、 @温度差によるタンク等の呼吸作用によりタンク内の水分が凝縮 Aオイルクーラーからの漏水 B工作機械等のように、水溶性切削油やクーラントなどが混入 等が挙げられます。 もっとも、新油においても20〜100ppm程度の水分は溶解しており、完全に除去することは極めて困難です。しかし、この程度であれば油と分離することはなく実用上問題はありません。 |
2. | 油中混入水分が与える悪影響とは 油中に混入した水分が多くなり、分離した形で存在するようになると、次項に述べる油自体への影響以外にも次のような現象が出てきます。 @稼動部分やタンク等での錆の発生とその錆によるバルブ類のかじりやつまり A油中水滴の、油膜破断による稼動部分のかじりや焼付き Bバルブやポンプ内での急激な圧力変化によるキヤビテーションの発生 |
3. | 作動油の水分による劣化について 油圧装置のなかで、作動油は循環使用され熱を受けると共に攪拌され空気中の酸素と触れ合って、酸化劣化していきます。水分はこの酸化反応によって生成した有機酸の働きを活発化し金属の腐食発生の促進剤となり、ますます作動油の劣化は促進されます。 [図1]は新油における水分量と酸化劣化度(RBOT酸化劣化試験)の関係を示したものです。水分量が0.2Vol%を超えると急速に酸化劣化が促進されるのがわかります。 一般的な水分の管理基準を[0.1〜0.2Vol%]に置いている理由もここにあります。 |
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図1 水分が劣化に及ぼす影響 | |
[表1]は新油に水分と金属線(触媒として作用)を加えた場合の油の劣化促進度合いを比較したものです。水分がいかに強い影響を与えるかが理解できます。 |
金属線 | 水 分 | 劣化時間 Hr | 全酸価 mgKOH/g |
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I | なし | なし | 3,000 | 0.13 |
なし | あり | 3,000 | 0.78 | |
II | 鉄線 | なし | 3,000 | 0.56 |
鉄線 | あり | 400 | 8.10 | |
III | 銅線 | なし | 3,000 | 0.89 |
銅線 | あり | 100 | 11.2 |
試験条件 | |||
潤滑油 ; | 150ニュートラル | 金属線 ; | 鉄線・銅線 各3m |
油 量 ; | 300ml | 水 分 ; | 60ml |
油 温 ; | 93℃ | その他 ; | 酸素吹込み |
表1 油の酸化に及ぼす水・金属線の影響 |
このようにして作動油に発生する劣化物にはカルボン酸、オキシ酸、アルデヒド、ケトン類などがあります。これら劣化物は油系統内を腐食させるだけでなく、重縮合物質となりスラッジ化し、機器類の作動不良ひいては運転停止という事態を引き起こします。 | |
4. | 水溶性切削液の作動油に与える影響について |
工作機械等に使用される作動油には切削液が混入することもよくあります。切削液の添加剤のなかには、作動油の添加剤と反応したり油分に溶けず、粘着性のスラッジとなって油圧機器の細部に固着し、作動不良を起こさせる原因となります。
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以上のように、わずかな水分でも放置することは油の劣化を促進するだけでなく、装置そのものにも大きな損害を与えます.始業時には必ずドレンから水分を抜く習慣をつけるようにして下さい。また、多量の水分が混入した時は早急に浄油脱水するか更油して下さい。
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