ID-L118 ガスホルダーに使用される潤滑油について


ガスホルダーには、その貯蔵方法によって幾つかの種類があります。
  1. 定容量型 ガスホルダー (球形・円筒形等)
  2. 可変容量型 ガスホルダー ・・・・・(1)湿式ガスホルダー (円筒形) ・・・・・(2)乾式ガスホルダー (円筒形)
などが一般的です。 定容量型 ガスホルダーは、都市ガス(天然ガスが主体)や、プロパン、ブタンをはじめ、 工場副生ガス等が貯蔵されます。タンク自体に可動部分がないため、潤滑油は使いませんが、 地震対策として、基礎部分に油圧ダンパーを装備するホルダーも多くあります。密封式のた め、普通は更油等をすることはありません。油圧油としては、粘度指数が高く、長期安定性 を高めたR&O型あるいはAW(耐摩耗性)型が用いられます。
可変容量型の湿式ガスホルダーでは、シール水を張った水槽にガス槽構造物を浮かべるた め、やはり潤滑油は不要です。

〔可変容量型 乾式ガスホルダー〕
産業用ガス(副生産ガスや高炉ガスなど)では、可変容積型のタンクで貯蔵されることが多く、このタンクは、貯蔵と使用の状況によって湿式ガスホルダー同様、タンクの内容積が変化するもので、その容量は大きいもので、約45万 m3にもなります。
【図-1】にその構造を示します。右のシール部概略図において、ピストンと称する可動屋根 の周囲に設けられた油溝とホルダー側壁の間隙にシール油を張り、摺動部分の潤滑をおこな うと共にシールの役目を果たします。シール油は油溝下部の滑り板とキャンバス(特殊な合 成布)で保持されますが、シール油の重量がホルダー内のガス圧に打ち勝ち、シール油は少 量づつ滑り板を潤滑しながらホルダー側壁を流下していき、ホルダー下部の油溝に溜まりま す。油溝に溜まった油は、集油槽に回収され、循環使用されます。

【図-1】乾式ガスホルダーの構造 (右図は、シール部の概略図)


化学工場等ではオフガス、製鉄所では、高炉ガスやコークス炉ガス、転炉ガスを貯蔵しますので、ガス自体不純物が多いうえに、水分や塵埃も多く、ガスホルダー油は、不純物のガスによって、希釈されて粘度が低くなったり、水・塵埃による汚染が極めて激しくなります。従って、数十KLの集油槽を設け、溶解した不純ガスの分離や水分・汚染塵埃の分離沈降を促す構造が必要となります。

潤滑油に要求される性能は、@ 適正粘度および高粘度指数特性 A 水分離性 B 酸化 安定性 C ダスト沈降性 D 錆止め性 E 重質炭化水素の溶解性 などです。

ガスホルダー油は、貯蔵するガスにもよりますが(希釈されることを計算して高目の粘度を選定することがある)、ISO VG64〜120の高度精製基油を無添加で使用する場合と、防錆剤や酸化防止剤、流動点降下剤を添加した潤滑油を使用する場合があります。塵埃の分離性を良くするためには、基油の精製度を高くするのがよいとされています。 製鉄所で使用されているガスホルダー油の一例としてその性状を【表-1】に示します。

ガスホルダー油の規格として標準的なものはなく、ガスホルダーメーカーあるいは需要家が独自の規格および管理基準を設定しています。前述したように使用油は溶解性ガスによる希釈、水や塵埃等による汚染が激しいので、その管理には十分注意が必要です。潤滑油の消耗はあまりありませんが、汚染等が激しいために定期的な部分的更油が実施されています。
なお、シール油の替りにグリースを使用する構造のガスホルダーもありますが、基本的な 原理・使用条件は同一ですので省略いたします。

試 験 項 目 ガスホルダー油
密 度 g/cm3 0.886
引火点 ℃ 230
流動点 ℃ -30
動粘度 (40℃) mm2/s 116
粘度指数 98
全酸価 mgKOH/g 0.01
水分離性* O-W-E ml 70-50-0(15min)
ダスト沈降試験* mg 44
【表-1】 製鉄所向けガスホルダー油の性状
(注)*印の試験は、ガスホルダーメーカーの指定する試験法による

参考文献
三菱重工業株式会社パンフレット
石川島播磨重工業株式会社パンフレット




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