ID-S08 プレス加工油のトラブルと対策について
 
 プレス加工の現場においては、円滑な生産活動を阻害する種々のトラブルが発生することがあります。これらのトラブルのうちのかなりの多くはプレス加工油に起因するか、もしくはプレス加工油で解決可能なものと思われます。
 表1〜5に、金属材料別にプレス加工における代表的なトラブル例とプレス加工油による対策方法を示しました。また、これらの表はプレス加工油の選定の際にも役立つと考えられます。
 
表1 軟鋼板のプレス加工におけるトラブルシューティングチャート
 
トラブル内容 原   因 対     策
打抜き加工におけるダイス、ポンチの早期摩耗、ポンチの折損 @打抜き油の極圧不足 塩素系極圧添加剤を含む油が最も有効である(ただし、錆に注意)
A活性いおう系油の使用 不活性いおうまたは塩素系油へ切替える(ただし、錆に注意)
B粘度不足 1グレード粘度を上げてみる
Cダイス、ポンチのクリアランスの不適正 クリアランスのチェック
壁われ、ネッキングの発生 @絞り油の油性不足 油性の良い油の使用
Aダイス肩Rが小さい ○ダイス肩Rをチェックして直す
○高粘度で油性の良い油の使用
B高速のため、金型温度が上昇 ○水溶性油の使用
○油性の良い油の使用
底われの発生 @絞り油の油性不足 油性の良い油の使用
A板材の両面への塗布 ダイス側だけの塗布にする
B粘度不足 高粘度油の検討
型かじりの発生 @絞り油の極圧性不足 活性いおう系油、塩素系油を使用する(添加剤量をふやす)
A粘度不足 1グレード粘度を上げてみる
B金型への摩耗粉付着 金型を清掃する
C金型の温度上昇 ○金型の水冷又は空冷
○水溶性油の使用
○給油量をふやす
錆の発生 @防錆剤無添加油の使用 防錆剤添加油に切替える
A水のかかる場所への保管 ○屋内保管にする
○水置換性のある防錆油を塗布する
B塩素系油使用による赤サビの発生 いおう系油への切替え
C焼鈍後、溶接後の赤サビの発生 ○塩素系油は使用しない
○焼鈍、溶接後に防錆油を塗布する
アルカリ脱脂不良 @粘度が高すぎる 低粘度化する
A塩素系油を使用 いおう系油への切替え
B脱脂液の性能不足 強アルカリ脱脂液に切替える
C脱脂温度が低い 温度を60℃位に上げる
トリクレン脱脂不良 @粘度が高すぎる 低粘度化する
Aいおう系油を使用 塩素系油に切替える
Bトリクレンの汚れ増加 トリクレンの交換、または再生処理を実施する
C水溶性油を使用 油性タイプに切替える
かぶれの発生 @基油の精製度が低い 高精製度基油を用いた加工油を使用する
A揮発性油を使用 揮発性を低くした加工油を使用する
B長時間油に接触している ○保護クリームを使用する
○石けんを用いて頻繁に手を洗う
○油を通さない手袋を使用する
Cかぶれ易い体質である 油に直接接触しないようにする
床面や機械の汚れ @加工製品からの加工油のたれ落ち ○コンテナー下部に油受けを作る
○水溶性油を使用する
発煙、ミストの発生 @金型温度が高い ○水溶性油の使用
○給油量をふやして冷却する
○金型の水冷または空冷
A加工油に低沸点成分が入っている 低沸点成分の除去
 
 
表2 亜鉛メッキ鋼板のプレス加工におけるトラブルシューティングチャート
 
トラブル内容 原   因 対     策
白サビの発生 @長時間塩素系油を付着している ○絞り油を早めに脱脂する
○塩素系油の使用を避ける
A水分が付着する ○室内保管をし、水分を避ける
○アルカリ脱脂の後良く乾燥する
パウダーリング(亜鉛粉の剥離)が多い @粘度不足 粘度を上げる
A油性不足 油性剤、いおう系極圧剤の増量
Bしごき加工になっている クリアランスのチェック
その他 軟鋼板の場合と同じ 軟鋼板の場合と同じ(ただし、水溶性油の使用は避けること)
 
 
表3 ステンレス鋼板のプレス加工におけるトラブルシューティングチャート
 
トラブル内容 原   因 対     策
かじりの発生 @極圧性不足 塩素系油を使用する。(添加剤量をふやす)
A粘度不足 粘度を上げる
B冷却性不足 水溶性油に切替える
油脂不足 @水溶性油をトリクレンで脱脂 水溶性油はアルカリ脱脂する
A高粘度塩素系油をアルカリ脱脂 トリクレン脱脂する
その他 軟鋼板の場合と同じ 軟鋼板の場合と同じ
 
 
表4 銅・銅合金板のプレス加工におけるトラブルシューティングチャート
 
トラブル内容 原   因 対     策
板表面が黒く変色 @加工油中にいおう分が入っている ○非いおう系油に切替える
○銅不活性化剤を添加する
○変色した製品は酸洗い処理後Dn.リンスコートCu−2を塗布する
板材表面が緑色に変色、光沢不足 @加工油中に遊離脂肪酸が多く入っている ○遊離脂肪酸の入っていない油に切替える
○銅不活性化剤を添加する
○変色した製品は酸洗い処理後Dn.リンスコートCu−2を塗布する
われの発生 @油性不足 油脂分、エステル分の多い油を使用する
A粘度不足 粘度を上げる
焼鈍後の残渣が多い @油脂分、脂肪酸分が多すぎる エステル分の多い油に切替える
A石けんタイプ水溶性油を使用している エステル、ポリマーを主成分とする水溶性油に切替える
 
 
表5 アルミ、アルミ合金板のプレス加工におけるトラブルシューティングチャート
 
トラブル内容 原   因 対     策
白サビの発生 @長期間塩素系油を付着している ○加工油を早めに脱脂する
○塩素系油の使用を避ける
A水分が付着する ○水溶性油の使用を避ける
○水分の付く所に保管しない
○アルカリ脱脂は避け、トリクレン脱脂する
製品の光沢不良 @粘度が高すぎる 粘度を下げる
A油性が良すぎる 油性剤の量を下げる
B揮発性油の使用による凝縮水分の付着 揮発性油の使用を避ける
われの発生 @油性不良 油性剤の量をふやす
A粘度不良 粘度を上げる
「出典」
  プレス加工油Q&A 月刊トライボロジ1990.7 p44−45
 
 

 
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