ID-110 切削油剤の配合処方について |
切削油剤は不水溶性油剤と水溶性油剤に大別されます。ここでは、JIS区分に即して不水溶性油剤と水溶性油剤の配合について解説します。 不水溶性油剤は鉱油を基油とし、油性剤や極圧添加剤を配合したものです。不水溶性油剤のJIS区分を表11)に示します。極圧添加剤の有無によって大きく分類されます。 ![]() 注(1)硫黄系極圧剤を添加したものに適用する。 1.不水溶性油剤 1種(いわゆる油性形)は極圧添加剤を含有せず、鉱油と動植物油またはエステルからなります。 2種(いわゆる極圧形)は1種に極圧添加剤が加わったものです。 ここで、添加剤の効果について簡単に説明します。添加剤の作用効果は温度によって異なることが知られています。図1は主要な添加剤の温度と摩擦係数の関係を概念的に示したものです。鉱油の摩擦係数は比較的高く、摩擦面の温度の上昇とともに単調に増加します。油性剤は金属に強く吸着するので摩擦係数が低く良好な潤滑性を持ちますが、摩擦面がある温度以上に達すると金属表面から脱離して潤滑性を失います。極圧添加剤は高温で摩擦面と反応し、母材よりも融点の低い膜を形成することにより潤滑性を発揮します。 ![]() 図1 油性剤・極圧剤の温度特性 従って、摩擦条件が厳しくなり、摩擦面の温度が上昇した場合に効果が現れるものです。鉱油に油性剤と極圧添加剤を配合した油剤は広い温度で良好な潤滑性を示すことになり、そのため、2種(極圧形)は汎用性油剤として広範な加工に使用されています。 1種(混成形)は、動粘度及び脂肪油分によって1〜6号に細分されます。1種はアルミ合金や銅合金などの非鉄金属の加工に使用されています。 2種(極圧形)は動粘度と脂肪油分と塩素分と銅板腐食によって1〜6号および11〜17号の13種類に分類されます。1〜6号は銅板腐食が不活性で、11〜17号は銅板腐食が活性です。 2.水溶性油剤 水溶性切削油は原液を水に希釈して使用するものです。水溶性油剤のJIS区分を表21)に示します。鉱油と界面活性剤の割合によって、希釈液が白濁、半透明または透明になります。 ![]() |
備考 | 不揮発分・塩素及び全硫黄分は原液で、それ以外は室温20〜30℃においてW1種は標準希釈倍率10倍の水溶液、W2種は30倍の水溶液の性状を規定したものである。 希釈方法は、6.2による |
W1種(いわゆるエマルション)は、本来水に溶けない不水溶性油剤の成分を界面活性剤で水に分散するようにし、さらに、さび止め性や耐腐敗性を付与するための成分が添加されたものです。希釈液の外観は牛乳のような白色になります。1〜3号の細分はpH・塩素分・金属腐食によるものです。水溶性切削油の中ではエマルションは潤滑性が優れており、主に切削加工に使用されます。 W2種(いわゆるソリューブル)は希釈液外観が透明もしくは半透明になるものです。合成潤滑油を基油としたシンセティックタイプと呼ばれる油剤は、JISではW2種に分類されます。エマルション、ソリューブルには極圧添加剤を含有したものもあります。またJISの規格外で、セミケミカルという油剤があります。これは無機塩・さび止め剤・アルカノールアミンが主成分であり錆止め性が良好で、主として研削加工に使用されます。 3.配合処方 不水溶性切削油剤の一般的な組成を表3に、水溶性切削油剤を表4に示します。 ![]() ![]() |
「参考文献」 1)JIS−K 2241−1997 2)桜井俊男:潤滑の物理化学,幸書房(1978)236 3)赤川章:トライボロジスト,38,2(1993)165 |