ID-112 溶剤希釈型防錆油

 
1. 概要

 防錆油は石油系基剤に防錆添加剤やその他の成分を添加したもので、一時的防錆に用いられ、石油系溶剤で簡単に除去できるものをいいます。用途としては金属材料の保管、輸送あるいは中間工程の防錆が挙げられます。一時的という言葉は防錆期間が短いというよりも、必要に応じて容易に除去できることに重点があり、塗装、めっき、ライニングなどの最終表面処理と大きく異なる点です。このような目的から防錆期間は1週間から数年と幅広い範囲にわたっています。

 防錆油は第2次世界大戦中に米国を中心として発展したもので、主として兵器の防錆管理用としてMIL規格が制定されました。わが国の防錆油は朝鮮戦争を契機として米軍よりもたらされたもので、その後民間産業に普及するに従い、MIL規格に準処したものとして最終的にJISK2246(1994)が制定されました。しかし、防錆油に対する産業界の要求は極めて高く、JISにとらわれない企業独自の防錆油も数多く使われています。現在市販されている防錆油を新たに体系化することは困難であり、分類については基本的に変わらない従来のJISを中心として説明することにします。

 溶剤希釈型防錆油はJISでは溶剤希釈形さび止め油(NP-1,2,3,19)と指紋除去形さび止め油(NP-0)ですが、この他にも多種の製品が使用されています。溶剤希釈形はJISでは「不揮発材料を石油系溶剤に溶解又は分散せた防錆油で、塗布後、溶剤が揮発してさび止め被覆膜を形成するもの」と定義している(JISのさび止め油については105項を参照して下さい)。溶剤希釈型防錆油の特徴は以下の通りで、防錆油の主流となっています。

 (1)粘度が低く、取り扱い性に優れる。
 (2)皮膜強度が強く、液切れ、さび止め性に優れる。
 (3)中間工程用として、洗浄兼防錆に優れる。
 (4)可燃性溶剤を使用しているため、毒性及び引火の危険がある。

 上記不揮発材料は一般にさび止め添加剤と油膜調整剤、その他からなり、これらの組み合わせにより、硬質膜(NP-1,19)、軟質膜(NP-2,3)、指紋除去(NP-0)など種々の性能を持つものを作ることができます。
 

 
2. 分類
 
(1)

NP−1(硬質膜不透明型)
アスファルト、樹脂その他の組成物を石油系溶剤に希釈したもので、溶剤が揮発した後、硬質の非粘着性皮膜を形成します。防錆油剤の中で防錆能は最も優れていますが、皮膜の除去性が劣るのが欠点です。大型機械の精密加工されていない面や、簡単な組み立て品に適用され、1~1年半の屋外暴露、海上輸送などに使用されます。精密部品は溶剤で除去する際、損傷を受けるので好ましくありません。

(2)

NP−19(硬質膜透明型)
樹脂、ワックスその他の組成物を溶剤に希釈したもので、溶剤が揮発した後、透明硬質の非粘着性皮膜を形成します。NP-1に次いで防錆性は良く、表面に書かれた記号や表面状態を透視できる用途に利用されます。

(3)NP−2(軟質膜型)
ペトロラタム、ラノリン、潤滑油留分、防錆添加剤などの組成物を溶剤に希釈したもので、乾燥して厚膜の軟質膜を形成します。屋内保管の長期防錆用に適し、除去も容易です。ただし、水置換性に劣ります。
(4)NP−3(軟質膜、水置換型)
水置換性を有するのが特徴で、乾燥して薄膜の軟質膜を形成します。水の付着した面に塗布しても、水分を押しのけ、さびの発生を防止する作用があります。金属製品の防錆用あるいは防錆の前処理用に利用され、溶剤型の中で最も需要量が多いです。引火点が38℃以上のNP-3-1と引火点が70℃以上のNP-3-2があります。
(5)NP−0(指紋除去型)
組み立て中の部品類は、工程毎に多数の人手に触れ、指紋によるさびが発生しやすくなっています。この指紋は食塩を主成分とするもので、通常の石油系溶剤や防錆油では完全には除去できません。NP-0は溶剤希釈タイプの防錆油に水溶性有機溶剤、界面活性剤などで少量の水を可溶化したもので、指紋や水溶性物質を除去し、さびの発生を防止するようにしたものです。ベアリングなどの精密部品や中間工程用に使用されます。
 
 
3. 成分
 
溶剤希釈型防錆油は石油系溶剤、防錆添加剤、油膜調整剤、その他からなります。
(1)石油系溶剤
引火点38℃以上のミネラルターペン、灯油が主として使用されます。
(2)防錆添加剤
金属表面に対する強い吸着能と油への溶解性を満足するものが利用されます。このためには吸着能の優れる極性基と溶解性に関与する無極性基(親油基)が存在しなければなりません。このような構造の化合物を広義には界面活性剤といい、油溶性界面活性剤の1種です。よく使用されるものとして、石油スルホネート、酸化ワックスの金属石けん、多価アルコールの脂肪酸モノエステルなどが挙げられます。
(3)油膜調整剤
さび止め油の油膜を調整する物質で、ペトロラタム、ワックス、動植物油脂、合成及び天然樹脂、潤滑油基油などが用いられます。
 
 

 
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