ID-000 非鉄金属の切削加工油剤について ここでは、非鉄金属の代表例としてアルミニウム合金、マグネシウム合金、および銅合金を取り上げ、簡単に解説します。 アルミニウム合金について 一口に言えば、アルミニウム合金は工具寿命から見た被削性は非常に良いが、軟らかいので溶着を生じやすい材料です。したがって問題の多くは溶着に起因し、加工面のむしれによる精度や粗さ不良に関する問題を生じやすくなることです。工具摩耗に起因する不具合は比較的少ないようです。 油剤選定では、加工性能面と変色について注意が必要です。
水溶性のエマルションタイプを適用することが望ましいと思われます。特に加工性能を重視するときはエマルションを選定すべきと考えます。 作業性等の二次性能を重視してエマルション以外を適用するケースも見られるようになりましたが、この場合は、加工条件や材質を十分に調査して溶着による問題を生じる可能性が小さいと判断される場合に適用可能となります。その場合は油剤の濃度管理に細心の注意を配る必要があります。また、チャージ直後の切削性能の不具合(潤滑性不足による不具合)を生じることもあるので注意を要します。 アルミニウム材の表面変色は溶出を伴う腐食(孔食)とは異なり、表面層で生じる現象でウォーターステインと呼ばれています。このウォーターステインとはアルミニウムが水分と接触することにより、アルミニウム表面にアルミナ水和物の薄膜(1〜2μm)が生成し表面光沢の減少あるいは褐色〜黒色に着色する現象です。表面の着色は、材料中の不純物(Fe,Siなど)の影響あるいは水和物被膜中に金属アルミニウムの微粒子が存在するためと言われています。また、この水和物被膜は通常水だけでも徐々に進行しますが、アルカリの存在によって促進されます。水溶性切削油剤による変色はアルカリの影響が大きく、チャージ直後のクーラントのpHが高い時期に生じることが多いようです。ウォーターステインとアルミニウムとの間には、通常緻密な酸化アルミニウムの層が形成されているのでアルミニウム内部への侵食(孔食)はないとされています。 孔食 孔食は劣化が進んでクーラントの防食性が低下した時期に生じることが多いようです。孔食はクーラントの劣化(さび止め性の低下、腐敗)やクーラント中の陰イオン(塩化物イオン、硫酸イオンなど)の蓄積によってクーラントの防食性が低下した場合などに発生します。チャージ直後のクーラント中には防食成分が十分に存在しますので、この時期に孔食を生じることはほとんどありません。 腐食防止策 上記のように変色と孔食では原因が異なることがあるので対策方法も別 に考える必要があります。 変色対策はアルミ変色を生じにくい油剤を適用しなければなりません。ただし、pHのみを考慮してpHの低い油剤を用いると、長期間使用されるクーラントでは、孔食の問題を生じやすい結果 になることがあります(pHの低い油剤は耐腐敗性、耐劣化性が乏しくさび止め性が低下しやすい傾向があります)。 一方、孔食対策としては以下のことが考えられます。
クーラントの影響は、合金中のアルミニウム以外の金属に左右されることがわかっています。材質の比較では、一般的に次の傾向があります。 変色生じやすい ←−−−−−−−−−−−−→ 変色生じにくい A1999-2003 > A7000 > A5000 ≧ A3000,A6000 > A1000 一般的な傾向として、重金属(Cu,Zn,Fe,Crなど)を多く含む材料ほど変色しやすい傾向があります。 <アルミニウム合金の種類>
マグネシウム合金について マグネシウム合金は切削加工時の所要動力がアルミニウム合金の約1/3、鋼の約1/10と、被削性は非常によい材料です。ドライ切削も可能でありますが、切削時の熱による切屑の燃焼や粉塵火災の危険がありますので、湿式加工が主流となっています。以下にドライ、不水溶性切削油剤(以下、不水と略します)、水溶性切削油剤(以下、水切と略します)の利点と問題点について述べます。
マグネシウム合金の切屑は危険物第2類の可燃性固体に該当します。マグネシウムはいったん燃え出すと爆発的に燃焼しますので、火気には十分な注意が必要です。 水切で加工した切屑には水分が付着してますので、経時的にマグネシウムの溶解→水素ガスの発生が起きます。したがって、密閉容器ヘの保管は厳禁です。また、加工後は速やかに水分を分離、除去する方策を講ずる必要があります。 銅およびその合金について 純銅の切削ではせん断角が非常に小さいので切削抵抗が大きく、仕上げ面にむしれや盛り上がりを生じやすく、軟らかいのに削りにくい材料です。 銅合金は一般に被削性は良く、6/4黄銅に1〜3%鉛を加えた快削黄銅は被削性が非常によい材料です。銅および銅合金の切削には、硫黄系の極圧剤は適用できません。また、不水溶性切削油剤では油脂あるいはエステル系の潤滑成分も変色の原因になることがあります。水溶性切削油剤を用いる場合は、耐硬水性に優れた油剤を適用することが必要です。 また、黄銅では亜鉛への影響を考えpHの比較的低い油剤を適用した方がよいと思われます。 これら非鉄金属の被削性を鉄系材料と対比して表1に示します。 表中の被削性指数(machinability ratio:MR)は、工具寿命から見た材料の被削性を表す指数で、被削性比あるいは被削性率などとも言われます。硫黄快削鋼(SUM21)を標準(100)として表します。
ユシロ化学工業株式会社 技術本部 商品技術部
被削性(machinability)水溶性第1グループ 主査 阿部 聡 材料の削り易さを一言で被削性と呼びますが、生産性の観点から見た被削性とは、@工具寿命 A仕上げ面被削性(machinability) 材料の削り易さを一言で被削性と呼びますが、生産性の観点から見た被削性とは、@工具寿命 A仕上げ面 品位(精度、粗さ) B切削抵抗 C切屑処理性 等を総合して評価されるべきものであり、材料特性によって一義的に定まるものではありません。したがって、評価基準を明らかにする場合は、「工具寿命から見た被削性」とか「切屑処理性から見た被削性」という表現がなされます。 |