ID-332 水溶性切削油剤の腐敗について
水溶性切削油剤の腐敗は、微生物(バクテリア、カビ、酵母)の増殖によって発生します。微生物は、土壌、工業用水、人体などの環境に広く分布しており、それらからも使用液中に混入しますが、さらに大きな混入源は、更液時にタンク、配管、工作機械などに残留する使用液(腐敗液)です。したがって、更油時にはタンクや配管中に腐敗液が残らないようによく洗浄し、殺菌剤を用いて殺菌しておく必要があります。 | ||
微生物の増殖に関与する因子として、温度、油剤濃度、水質、PH、混入する異物などがあります。 水溶性切削油剤の腐敗に関与するバクテリアが最も増殖しやすい温度は30〜40℃であり、夏季における使用液温度はこの条件を満たしています。低温になるとバクテリアの活動力が鈍り、また、高温になるとバクテリアが死滅して、いずれの場合にも腐敗は抑制されます。表1は、バクテリアの増殖した使用液を加温した場合の生菌数の変化を示したものです。55℃以上の高温で急激な生菌数の減少が認められます。 | ||
加熱温度(℃×1h) | 生菌数(個/ml) |
---|---|
− 40 50 55 60 |
2×108 2×108 2×108 1×104 1×104以下 |
表21)、表31)及び図12)に、バクテリアの増殖におよぼす油剤濃度、水質及びPHの影響を示します。油剤濃度が低い程、また、希釈水の硬度が高い程、生菌数の増加傾向が認められます。また、PHは8.5以下になると生菌数の増加が著しくなります。微生物の増殖により、PHの低下、さび止め性能の低下、腐敗臭の発生、1次性能の低下などの問題が発生します。 特に、エマルションタイプの油剤が腐敗しやすく、エマルション破壊にいたる場合もあります。 | ||
原液−水液 経日 | 0 | 2 | 6 | 12 | 16 | 20 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
|
|
|
|
|
|
表3 バクテリアの増殖におよぼす水質の影響1)
エマルション形油剤(25倍)生菌数×106個/ml
希釈水 経日 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
|
|
|
|
|
![]() |
腐敗を防止するためには、つぎの各項の実施が有効です。 | |||
(1) | 更液時にはタンクや配管中に腐敗液が残らないようによく洗浄し、殺菌剤を用いて殺菌する。 | ![]() | |
(2) | 希釈水は水道水または水質検査をした良質な工業用水を使う。 | ||
(3) | 油剤濃度を適正に保つこと。 | ![]() | |
(4) | PH低下の防止。必要に応じてPH向上剤を投入する。 | ![]() | |
(5) | 異物(切りくず、異種油など)の混入防止と早期除去。 | ![]() | |
(6) | 殺菌剤の定期投入。ただし、2種類以上の化学構造の異なる殺菌剤を交互に使用すること。こうすることにより、薬剤耐性菌の増殖を防止できる。 | ||
(7) | 機械停止時の使用液への空気吹込み。ただし、この操作は必要最小限度にとどめるべきである。過剰な空気吹込みは、好気性菌の増殖を促し液の劣化を促進する。 | ||
(8) | 循環系は、タンクのコーナー部など液の流動しない部分のないような設計とする。 | ||
水溶性切削油剤の寿命は、腐敗現象により決定されることが最も多いため、防腐対策は重要です。 |
参考文献; | ||
1) E.O.Bennet : Lub.Eng.28, 6(1972)237 2) 新宅 順三 : 日本潤滑学会第21回東京講習会教材(1970)11 | ||