ID-L083A 塩素系極圧添加剤の環境問題と対策
 
 切削油剤中には極圧添加剤として塩素化合物、硫黄化合物などが使用されています。このような極圧添加剤を含有する油剤を焼却すると塩化水素、二酸化硫黄など酸性雨の一因となる有害ガスを発生します。また、塩素化合物は焼却すると、毒性の強いダイオキシンを発生するおそれがあり、大きな社会問題にもなっています。ダイオキシンとは、図1の(A)に示した化学構造を有する芳香族系塩素化合物ですが、一般には(B)も含めてダイオンキシン類と総称されています。
 

 
図1 ダイオキシン類の化学構造
 
 
 ダイオキシン類には、塩素数、塩素付加位置が異なる種々の異性体が存在しますが、特に、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾダイオキシンは、強い毒性、発ガン性、催奇性を有することが確認されています。表1は毒性の強い物質の比較を示したもので、自然界にはダイオキシンを凌ぐ毒物も存在しますが、人類が合成した毒物としてはダイオキシンが最強といわれています。
 
 コストパフォーマンスに優れる塩素系極圧添加剤として塩素化パラフィンが多用されていますが、塩素化パラフィンには、ダイオキシン問題以外に発ガン性の指摘もあり、特定の塩素化パラフィン(C12,60%chlorine)は発ガン物質に指定されています1)2)

表1 各種毒物の毒性比較
毒性物質 LD50(mg/kg) 種類
ボツリヌス菌毒素D 0.32X10-6 細菌
ボツリヌス菌毒素A 1.1X10-6 細菌
破傷風菌毒素 1.7X10-6 細菌
バリトキシン 50X10-6 イソギンチャク
2,3,7,8-TCDD 600X10-6 ダイオキシン
サキシトニン 3400X10-6 プランクトン、貝
テトロドトキシン 10000X10-6 ふぐ
α−アマニチン 300000X10-6 テングダケ
コブラ毒素 500000X10-6
青酸ガス 3000000X10-6 無機化合物
青酸カリ 10000000X10-6 無機化合物
 
 このような背景から切削油剤から塩素系極圧添加剤を除く検討が行われ、塩素含有品と同等の性能を有する塩素フリー油剤が開発されています。
 
 また、不水溶性切削油剤の廃油の再生利用は比較的容易で、微小切り屑や水分などのきょう雑物を除去し、減少した添加剤の補充や粘度調整をすれば再利用できます。再生は省資源の観点から、また前述のように焼却によって発生する有害物による環境問題を軽減する意味でも有効な処理法と言えます。
 

 
図2 廃油再生フローシート
 
「参考文献」
  1) National Toxicology Program;Technical Repoert Series No.305 "Toxicology and Carcinogenesis Studies of Chlorinated Paraffins(C23,43%Chlorine)",(1986)
 
  2) National Toxicology Program;Technical Repoert Series No.308 "Toxicology and Carcinogenesis Studies of Chlotinated Paraffins(C12,60%Chlorine)",(1986)
 
 

 
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