ID-S77 クリーン環境用グリースとは グリースは自動車、鉄鋼、各種産業機械、鉄道車両、電機、航空機、宇宙関連機器などあらゆる産業分野において使用され、その使用環境はさまざまである。 クリーン環境用グリースがおもに使用されている分野は、たとえば半導体・液晶・食品・医薬品などの製造設備や電算機の固定磁気ディスク装置(HDD)の部品などがある。これらの用途では、低発塵性(微粒子の低減)などのクリーン特性が必要とされている。 ここでは、クリーン特性が特に必要とされているHDDに用いられているグリースを例にとり、その技術動向について簡単に述べてみたい。 ●クリーン環境用グリース 1.グリースの使用例 クリーン環境用グリースの使用例として、HDDの軸受には、鉱油を基油としたナトリウム複合グリース、エステル系リチウムグリース、合成油系ウレアグリース1)などある。また、半導体や液晶製造設備のボールネジ、直動案内軸受などには、鉱油、PAO(合成炭化水素油)を基油としたリチウムグリースやウレアグリースなどが使用されている2)。 真空環境下では、低蒸気圧で化学的にも安定であるパーフルオロポリエーテル油を用いたふっ素系グリース3)4)が使用されている。 2.グリースの特性 クリーン環境用グリースに求められる特性は、耐久性(音響寿命)、せん断安定性、防錆性、低トルク性、低騒音性など精密機器などの用途に求められる潤滑特性に加え、蒸発(アウトガス)、グリースの飛散などにより発生する微粒子の低減が必要となる。 微粒子の大きさは、エステル系合成油を使用したリチウムグリースの例で0.11〜0.20μm程度の微粒子の発生量が多いとの報告5)もあり、非常に小さいサイズの粒子が問題となるわけである。微粒子の発生を抑えるためには低蒸発性の基油を使用するとともに低飛散性を考慮して硬いグリース(4号ちょう度近辺)を使用する必要がある。アウトガスを判断する簡易的な方法として、薄膜蒸発量試験1)なども行われている。 ●グリースの技術動向 1.HDDの動向 最近の電算機の小型・大容量化に伴うディスクの小型化、アクセススピードの向上、低価格化の実現など、高容量、高密度化が年々、倍々ゲームで進行している6)。記録密度向上のため、ディスクのトラック幅やビット幅は狭くなり、ディスクと磁気ヘッド間の距離が短くなるためディスク空間のクリーン度の要求はますます厳しくなってきている。発生微粒子によるディスク表面の汚染は電算機の機能を阻害するため特に注意を要する。また、錆や腐食の原因となる塩素、硫黄化合物、帯電しやすい有機シリコーン化合物なども使用を避ける必要がある。 2.HDD用グリースの潤滑特性 HDDのスピンドルモータやアクチュエータの軸受に使用されている市販グリースの一例を表110)に示す。
これらのグリースは低蒸発性、低飛散性などのクリーン特性とともに良好なトルク特性、低騒音性などが必要である。これらの特性を維持するためには、原料の選択、製造方法も非常に重要となる。 ディスク駆動用のスピンドルモータの軸受用として、表1の市販品A、BおよびCが使用されている。低トルク性、低騒音性では市販品B、Cが優れ、低飛散性では市販品A、Cが優れている。 ディスクの回転数は現在5,400rpmぐらいであるが、今後10,000rpm以上の高速回転になることが予想され、グリースの低トルク性はますます重要となってくる。また、ノート型パソコンの普及に伴い、低騒音性、フレッチング特性などが低トルク性とともに必要になってくる。 HDDのアクチュエータは磁気ヘッドの位置決め機構で、小型HDDでは、ロータリー方式が多く採用されている。アクチュエータの軸受用として市販品Dが使用されている。この方式の場合、軸受は微小角度での揺動回転(0〜25度、0.02〜500rpm程度)で使用され、超低速から高速域まで良好なトルク安定性が要求される。このため油膜形成力の強い7)グリースが求められる。グリースの油膜の測定は、転がり条件下で光干渉法を用いて行われている8)9)。著者らがHDD用市販グリースの油膜厚さを測定した結果を図1、表210)に示す。特に低速域における油膜厚さが重要である。 ![]() 図1 HDD用市販グリースの油膜厚さ
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