ID-143 酸化防止剤について

油は空気の存在下、特に高温条件で使用すると、酸化されてアルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などの酸化物が生成し、油の品質を著しく低下させるだけでなく、機械のトラブルの原因にもなります。この酸化を防ぐために添加されるのが酸化防止剤で、工業用潤滑油、内燃機用潤滑油、グリースや航空機用燃料、自動車ガソリン等にも広く用いられており重要な添加剤の一つです。
 
 
1.酸化反応

潤滑油の酸化は連鎖反応によると考えられ、次の式で表わされます。RHは炭化水素分子、横に点を付したものは遊離基を示しています。

連鎖の開始 RH → R・+ ・H
連鎖の伝播 R・ + O → ROO・
ROO・ + RH → ROOH + R・
連鎖の停止 R・ + R・ → R−R
ROO・ + ROO・ ROOR + O

炭化水素(RH)は酸素の存在下で分解され、活性な遊離基R・ができます。遊離基は酸素と反応し過酸化物ラジカルROO・を生成します。ROO・,R・は新たな炭化水素を酸化してハイドロパーオキサイドROOHとなり、新たな遊離基を作り、さらに連鎖が伝播され、つぎつぎと酸化されます。反応は連鎖停止反応が起こるまで続きます。
 
 
2.酸化防止剤の種類と作用機構

酸化防止剤は作用機構の違いから(1)連鎖停止剤、(2)過酸化物分解剤、(3)金属不活性剤の三つに分類されます。
 

(1)連鎖停止剤
連鎖停止剤は活性の高い連鎖伝播体(ROO・,R・)を捕捉して連鎖反応を止め酸化を防ぐ働きをします。フェノール類、芳香族アミン等があり、フェノール系酸化防止剤の中で代表的なDBPCはタービン油などの工業用潤滑油に広く用いられています。芳香族アミン類はフェノール系に比べ高い温度まで効果がありますが、使用中に沈殿物を生成する場合があります。
 
(2)過酸化物分解剤
過酸化物分解剤は酸化反応中に生成されるハイドロパーオキサイド(ROOH)を分解し安定な化合物に変え、連鎖開始反応を阻止します。硫黄化合物、硫黄・りん化合物などがあり、ジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)が最も代表的です。
 
(3)金属不活性剤
金属は酸化反応を加速する触媒作用があるため、金属不活性剤の作用によって金属の活性を抑え間接的に酸化を防止します。金属表面に皮膜を形成し金属の活性を抑制するタイプと油中に溶解した金属と反応し不活性な化合物に変えるタイプがあります。
 
 
表1 代表的な酸化防止剤の例
種 類 化 合 物 例




フェノー
ル系

2,6-ジ-t-ブチルパラクレゾール(DBPC)
 

4,4'メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)
 

4,4'メチレンビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)
芳香族
アミン系

P,P'-ジオクチルジフェニルアミン
 

フェニル-α-ナフチルアミン
 

フェノチアジン






硫黄系
硫化油脂
 

ジベンジルジサルファイド
 
 

 
ジセチルサルファイド
硫黄・
りん系

 
(R : 1級あるいは2級アルキル基)
ジアルキルジチオりん酸亜鉛
 

(R : アルキル基)
ジアリルジチオりん酸亜鉛






 
N,N'ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン
 

ベンゾトリアゾール
 

2(n-ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール
 
 

 
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