ID-L168 フリクションポリマーとは |
摩擦によって機械的に創られた固体(特に金属)の新生面は、弾性・塑性変形熱によって高温となり、また格子欠陥の形成やエキソ電子の放射などによって、きわめて反応性の高い状態となっています。このような新生面近傍に他の物質が存在すると、物質同士あるいは物質と新生面との間で化学反応が起こることがある。これがいわゆるメカノケミカル反応あるいはトライボケミカル反応であり、新生面の熱的・触媒的な働きによって摩擦面上に高分子化合物が形成されるとき、それを摩擦重合体すなわちフリクションポリマーと呼びます。 フリクションポリマーという概念は、電気接点での通電不良の原因物質として初めて世に紹介されましたが1)、その後は、それらを潤滑剤として利用しようという試みが始まりました2、3)。代表例としては、ジカルボン酸とグリコールによるポリエステル化反応、あるいはジカルボン酸エステルとジアミンによるポリアミド化反応などが挙げられます。 nH00C-R-COOH+nHO-R'-OH→HO(OC-R-COO-R'0)nH+nH2O mCH3OOC-R-COOCH3+mH2N-R'-NH2 →mCH3O(OC-R-CONH-R'-NH)mH+mH2O ジカルボン酸とグリコールのハーフエステル化物は、ジカルボン酸よりも良好な潤滑性を示し、化学吸着理論だけでは説明できない効果を発揮することが知られており、これがポリマー被膜の潤滑作用に起因するものであると推定されています。事前にポリマー化あるいはオリゴマー化されているものは同様な潤滑効果を示さないことから、ポリマーが摩擦面上で形成されるという点が決め手となります。 潜在的に重合しやすい化合物はすべてフリクションポリマー型の添加剤となりうるわけですが、最近では、分子の両末端に反応基をもつものよりも、アルケニルコハク酸とエチレングリコールのハーフエステル化物や2-ヒドロキシステアリン酸などの方が、優れた潤滑効果を発揮することが報告されています4)。これらは、ポリマー被膜の効果と、長鎖炭化水素基の凝集効果とが相乗作用を示すためと考えられています。 フリクションポリマー型添加剤は従来、比較的穏やかな摩擦条件下で有効な添加剤と考えられていましたが、化合物の選択如何によっては、有害元素を含まない高機能な環境適応型の添加剤として今後の発展が期待されます。 |
「参考文献」 |
1) | H.W.Hermance & T.E.Egan :Bell System Tech.J.37(1958)739. |
2) | I.L.Goldblatt :Ind.Eng.Chem.、Prod.Res.Develop.、10(1971)270. |
3) | M.J.Furey :Wear、26(1973)369. |
4) | 岡部平八郎ほか:トライボロジスト、35(1990)922. |