ID-161 ココム熱安定試験について

 潤滑油を輸出するときには、外国為替管理令や輸出貿易管理令等の輸出関連法規を厳守しなければならないことは周知の事実です。
 1949年にCOCOM(Coordinating Committee通称ココム)が発足し、我が国も1952年から参加しています。このココムは、対共産圏への特定の貨物の輸出規制について、協議・協調の申し合わせを行い、各国は、この申し合わせを尊重し、国内法で戦略物資の輸出規制を実施しています。
 ココムはベルリンの壁の崩壊や旧ソビエトの崩壊等の国際状況により、時代とともに変化してきています。このような状況の中で、現在潤滑油剤を輸出する場合に許可申請が必要なものは、輸出貿易管理令の別表一及びその貨物又は技術を定める省令で定められています。その中で、熱安定性試験が必要な潤滑油剤について抜粋したものを以下に示します。


  • 輸出貿易管理令
    別表第一
    (九)  作動油として使用することができる液体であって、合成炭化水素油、シラハイドロカーボン油又はクロロフルオロカーボンを主成分とするもの
    (十)  潤滑剤として使用することができる材料であって、フェニレンエーテル、アルキルフェニレンエーテル、フェニレンチオエーテル、アルキルフェニレンチオエーテル若しくはこれらの混合物又はふっ化けい素を主成分とするもの。
    全地域


  • 輸出貿易管理令別表第一及び外国為替管理令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令

    第四条

    十一  作動油若しくは潤滑剤として使用することができる液体若しくは材料又は振動防止用若しくは冷媒用に使用することができる液体であって、次のいずれかに該当するもの

     作動油として使用することができる液体であって、次のいずれかに該当するものを主成分とするもの

    (一) 合成炭化水素油、シラハイドロカーボン油であって、次の1から4までのすべてに該当するもの
    1. 引火点が204度を超えるもの
    2. 流動点が零下34度以下のもの
    3. 粘度指数が75以上のもの
    4. 343度の温度において安定性を有するもの
    (二) クロロフルオロカーボンであって、次の1から6までのすべてに該当するもの
    1. 引火点を有しないもの
    2. 自己発火温度が704度を超えるもの
    3. 流動点が零下54度以下のもの
    4. 粘度指数が80以上のもの
    5. 沸点が200度以上のもの
     潤滑剤として使用することができる材料であって、次のいずれかに該当する物質を主成分とするもの

    (一)  フェニレンエーテル、アルキルフェニレンエーテル、フェニレンチオエーテル、アルキルフェニレンチオエーテル又はこれらの混合物であって、その有するエーテル基、チオエーテル基又はこれらの官能基の数の合計が3以上のもの
     
    (二)  液状のふっ化けい素であって、25度の温度において測定した動粘度が5,000平方ミリメートル毎秒未満のもの
     
     振動防止用に使用することができる液体であって、純度が99.8パーセントを越え、かつ、径が200マイクロメートル以上の粒状の不純物の数が100ミリリットル当たり25個未満のもののうち、次のいずれかに該当する物質の重量が全重量の85%以上のもの

    (一)  ジブロモテトラフルオロエタン
    (二)  ポリクロロトリフルオロエチレン
    (三)  ポリブロモトリフルオロエチレン
ココム熱安定試験は、前述の「343度の温度において安定性を有するもの」に該当するか否かを評価するために行われる試験です。この試験方法は、潤滑油業界のメンバーで構成されたココム委員会で決められた「圧力油に係る熱安定性試験(ココム委員会法)」として定められています。
 この試験方法は、MIL-H-27601Aに準拠しており、343度の温度での熱安定性をココムのテクニカルノートの指示により、実際には371度の温度で試験を行って熱安定性を評価しています。その試験方法の概要を表―1にまた、規格値を表―2に示します。


表−1 圧力油熱安定性試験方法(ココム委員会法)の概要
1.試験装置
1.1試験容器
 試験容器は、容量、46mlの 316 ステンレススチール製のもので、その形状・寸法は図1に示すとおりである。
1.2触 媒
触媒として下記に示す材質の0.5インチのボールベアリング用ボールを使用する。
(1) JIS G 4805 〔高炭素クロム軸受鋼鋼材〕のSUJ 2 (ASTM 52100 steelに相当)
(2) JIS F 3250 〔銅及び銅合金棒〕のC2700 (Naval Bronzeに相当)
(3) AISI M-50   (AISI M-10に相当)
1.3加熱装置
  加熱装置は、試験温度(371±6 ℃)を試験時間(6時間)安定して保持できる性能を有するものとする。
2.操 作
(1) 試料容器及び触媒を石油系溶剤(石油ベンジン等)でよく洗浄し、充分乾燥する。
(2) 試料油20mlを試料容器にとり、この中に触媒を3.2に記述する順番で静かに入れる。
(3) 容器を密閉し、容器内の空気を完全に窒素と置き換え、常圧とする。
(4) 試料容器を予め371±6℃に調節した加熱装置にいれ、その温度で6時間保持する。このとき窒素の圧力は概ね1.4kgf/cm2を示す。
3.報 告
 試験が終了したならば、触媒及び試料油をとりだし、触媒の質量変化、試料油の 38℃の動粘度の変化、及び全酸価又は全塩基価を測定して報告する。


表−2 ココム熱安定性試験規格値要
項  目 ココム規格値
動粘度(38℃) 変化(%) 25未満
試験球重量変化
  JIS G 4805 SUJ 2
  JIS H 3250 C2700
  AISI M 50
 
減量0.51未満
減量0.51未満
減量0.51未満
全酸価又は全塩基価 変化量(mgKOH/g) 0.4未満


 規格値すべてを満足したときに、熱安定性を有しているという判断がなされることになります。しかし、1項目でも規格値を外れていれば熱安定性を有していないことになります。

[参考文献]
 通産省公報No.13640、潤滑油協会 試験方法規格 圧力油熱安定試験方法(ココム委員会法)
 
 

 
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