ID-186 潤滑油の高圧粘度 液体の粘度は温度と圧力によって大きく変化することがよく知られています。従来、流体潤滑状態における摩擦の特性に対しては、流体潤滑理論が確立されており、軸受の油膜厚さ、油圧、負荷能力等の軸受特性が計算されてきました。しかしながら摩擦面は、高圧下で弾性変形することが確認され、摩擦条件の厳しい所でも流体潤滑状態になっているとする弾性流体潤滑理論がHalling、Cameronにより提案され、その後発展してきました。弾性流体潤滑理論では、潤滑面における高圧下での潤滑油の粘性が潤滑挙動に大きな影響を及ぼすことが明らかになり、潤滑油の高圧下での粘性率すなわち粘度を正確に知ることの重要性が指摘されています。実際に、弾性流体潤滑理論は、歯車の潤滑やころがり軸受の解析あるいは、トラクションドライブの解析に取り入れられています。一方、各種潤滑油の高温、高圧下の粘度に関する研究も今日までに多くなされており、数多くの研究者がいろいろな方法で潤滑油の圧力−粘度データを報告しています。 つぎに潤滑油の高圧粘度を実測した結果について紹介します。 原油系の異なる基油の高圧下における粘度の測定結果を図1に示します。原油系による差はあまりみられず3,000kgf/cm2以下の圧力下においては粘度の圧力係数α(図1の直線の勾配)はいずれの基油もほぼ同一です。また基油が固化する圧力もほぼ同一であり3,000kgf/cm2です。 | |
![]() 図1 基油の高圧粘度特性(@27℃) | |
合成油の高圧下における粘度の測定結果を図2に示します。ポリーα−オレフィンの粘度の圧力係数αが最も低く、12,000kgf/cm2の圧力下まで固化し始めません。次いでアルキルナフタレン、アルキルベンゼンの粘度の圧力係数αが低く、ほぼ同様な高圧粘度特性を示します。シリコーンは、これら2油よりやや高い粘度の圧力係数αを示すジシクロアルカン(合成ナフテン)はさらに粘度の圧力係数αが高く2,200kgf/cm2と比較的低圧力下で固化しはじめます。 | |
![]() 図2 合成潤滑油の高圧粘度特性(@27℃) | |
では、製品潤滑油の高圧粘度についてはどうでしょうか。 自動車用潤滑油および工業用潤滑油の高圧下における粘度の測定結果を各々図3、4に示します。ガソリンエンジン油および自動車用ギヤ油の粘度の圧力係数αは、ほぼ類似しています。また固化しはじめる圧力は5,500〜7,000kgf/cm2であり、基油が3,000〜4,000kgf/cm2で固化しはじめるのに対し、より高圧下まで固化しないことがわかります。 | |
![]() 図3 自動車用潤滑油の高圧粘度特性(@27℃) | |
工業用潤滑油においては、ギヤ油およびナフテン系の絶縁油がやや高い粘度の圧力係数αを示します。また圧延油1、2が比較的低圧力下(2,000〜3,000kgf/cm2)で固化しはじめます。 | |
![]() 図4 工業用潤滑油の高圧粘度特性(@27℃) |