ID-207 グリースの低温トルク試験について | |
グリースが充填された軸受が低温で使用される場合、低温性の劣るグリースは起動時及び運転時のトルクが大きく問題になります。グリースの低温性は増ちょう剤の種類、量の影響も受けますが、主に基油の流動点、動粘度の影響を受けます。一般的な鉱物油を用いたグリースの使用温度範囲の下限は−20℃です。−40℃またはそれ以下の温度で使用される低温用グリースはエステル油やポリアルファオレフィン油などの低流動点の合成油を基油とする必要があります。 | |
グリースの低温トルク試験方法は、JIS K 2220.5.14に規定されています。試料を詰めた軸受を規定の温度に冷却した後、軸受内輪を毎分1回転で回転し、軸受外輪を制止させるのに必要なトルクを求めます。回転トルクは回転起動時に得られる最大トルク、回転トルクは10分間回転した後に得られるトルクです。以下にJIS低温トルク試験の概要を述べます。 試験器は低温空気浴、軸受、駆動装置、試験ジグ、トルク測定装置などから構成されています。図1に低温トルク試験機の構成(一例)を示します。図2に駆動装置(一例)を示します。 6204開放形玉軸受に試料を100%充填します。図3に示す試験ジグに試験軸受をはめ込み、試験ジグを組み立てます。 |
![]() 図1 低温トルク試験機の構成(一例)1) |
低温空気浴内の駆動軸に試験ジグを取り付け、糸を試験ジグのハウジング外面とトルク測定用のばねばかりに連結し、試験ジグを駆動軸に固定します。 規定の温度まで下げ、その温度で2h保持します。電動機を起動させ、ばねばかりの最大値を記録します。10分間回転を続け、最後の15秒間の平均値を記録します。起動トルク及び回転トルクは次式により算出します。 |
|
起動トルク: | A×γ(N・cm) |
回転トルク: | B×γ(N・cm) |
ここに、A: | 起動開始直後のばねばかりの読みの最大値(N) |
B: | 回転10分間の最後の15秒間のばねばかりの読みの平均値(N) |
γ: | ハウジングのトルク半径(6.5cm) |
JIS K 2220の転がり軸受用グリース1〜3種には、次の規定があります。低温用2種は使用温度範囲下限の−40℃で転がり軸受用グリース1〜3種が規定されています(表1)。 |
1種2号 (汎用) |
2種2号 (低温用) |
3種2号 (広温度範囲用) |
|
---|---|---|---|
使用温度範囲下限 | −20℃ | −40℃ | −30℃ |
低温トルク N・cm (−20℃)起動トルク |
59以下 |
−− |
−− |
回転トルク | 29以下 | −− | −− |
(−30℃)起動トルク | −− | −− | 59以下 |
回転トルク | −− | −− | 29以下 |
(−40℃)起動トルク | −− | 59以下 | −− |
回転トルク | −− | 29以下 | −− |
JISと同じ低温トルク試験が、ASTM D 1478に規定されていますが、回転トルクは60分後に測定されます。また、ASTM D 4693には、自動車のホイールベアリングハブ(円すいころ軸受)を用いた低温トルク試験が規定されています。 |
[参考文献] |
1) JIS K 2220 グリース |