ID-241 ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法について
 
 潤滑油はいろいろな炭化水素の混合物であり、その沸点は広い範囲にわたります。また含まれる炭化水素の種類と量により異なる蒸留範囲を有することから、潤滑油の蒸留性状を測定することはその製品の特性を知る上において有用です。石油製品の蒸留性状を求めるために、JIS K 2254では常圧法、減圧法、ガスクロマトグラフ法の3種類が規定されていますが、このうち潤滑油に関するものは、減圧法とガスクロマトグラフ法の2種類です。ここでは最近広く使われているガスクロマトグラフ法について述べることとします。
 
 ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法は1990年にJIS K 2254において参考として示されていましたが、石油各社などにおいて広く使われていることなどにより、1998年の改訂により正式な規格となりました。
 ガスクロマトグラフ法のメリットとしては次の点があげられます。
(1)試験の全自動化が可能
(2)少量(1μl程度)の試料で試験ができる。
(3)沸点範囲の広い試料の測定が可能。
 
 測定方法を以下に示します。
 まず、ガスクロマトグラフの調整を行います。カラムの空焼き等の後、試料に応じた操作条件を設定します。表1に一般的な操作条件を示しました。カラム槽温度を最高使用温度にしてベースラインを記録させ、安定するのを待ちます。初期温度まで冷却した後、昇温プログラム及び記録計をスタートさせ、空試験でのベースラインの安定を確認します。もし変動が大きいようなら再度繰り返します。数度繰り返しても安定しない場合には、カラムを調整し直します。
表1 ガスクロマトグラフの一般的な操作条件
キャリヤガス 種類 ヘリウム又は窒素
流量mL/min 30〜60
試料導入部の温度    ℃ 350〜390
検出器 種類 水素イオン化検出器
温度1)  ℃ 350〜390
カラム槽の温度2)    ℃ -40〜390
昇温速度      ℃/min 6.5〜10
1)検出器部分の温度を高くすると、ノイズレベルが高
  く、また、ドリフトも大きくなり、更に寿命も短くなるの
  で、必要以上に高くしないこと。
 2)カラム固定相液体が固化するような極端に低いカラ
  ム温度は避けること。
 
 次にカラム分離度の測定を行います。これは、新しく調製したカラムを用いるときや操作条件を変更したときは、必ず測定する必要があります。まずベースラインの安定を確認し、カラム槽を初期温度まで冷却した後、分離度測定用試薬を0.2〜1.0μL注入し、昇温プログラム及び記録計をスタートさせます。得られたクロマトグラムから分離度を次の式によって求めて、3以上8以下にあることを確認します。
 

図1 分離度の測定
 
 次に沸点変換線を作成します。これは試験日ごとに以下の方法によって作成します。まずベースラインの安定を確認し、カラム槽を初期温度まで冷却した後、沸点変換線作成用混合物(沸点既知のn-パラフィンの混合物で、試料の沸点範囲を網羅するもの。使用の際には各成分が約1%になるように二硫化炭素で希釈する。)を0.2〜1.0μL注入し、昇温プログラム及び記録計をスタートさせます。各n-パラフィンの保持時間を記録し、それぞれのn-パラフィンの沸点と得られた保持時間によって沸点変換線を作成します。
 

図2 沸点変換線(一例)
 
 次に、試料をガスクロマトグラフに0.2〜1.0μL注入し、同一条件で測定します。得られたクロマトグラムより試料の蒸留性状を次のようにして算出します(図3参照)。
 まず各分割時間における面積(分割面積)を加算し、累積面積を求めます。累積面積を全累積面積で除して、各分割時間における累積面積%を算出します。各分割時間とその分割時間における累積面積とから、初留点、終点及び1〜99%の各累積面積に相当する保持時間を求めます。初留点、終点及び1〜99%の各累積面積の保持時間に対応する沸点を沸点変換線から求めます。
 

図3 クロマトグラムのモデル
 
 ガスクロマトグラフ法は常圧法及び減圧法と試験の原理が全く異なっていることもあって、同一試料を試験した場合、その試験結果は常圧法及び減圧法の試験結果とは一致しないので注意が必要です。
 ガスクロマトグラフ法の試験結果を常圧法又は減圧法のデータに変換したい場合は、JIS K 2254の解説に記載されている変換式を用いることができます。ただし、試料によってはガスクロマトグラフ法の試験結果を変換したデータは常圧法及び減圧法の試験結果とかなり異なる場合があるようです。
 詳細はJIS K 2254-1999-2003を参照して下さい。
[参考文献]
  燃料潤滑油用語辞典、(社)日本舶用機関学会・燃料潤滑研究委員会、成山堂書店
  JIS K 2254-1999-2003、日本規格協会
 
 

 
Copyright 1999-2003 Japan Lubricating Oil Society. All Rights Reserved.