ID-337 化学物質の危険有害表示制度
「製品安全データーシート(MSDS)」について

 あなたの工場で、原材料や副資材などに使用されている化学物質にはどのようなものがあるか、ご存知ですか? なかには取扱い方を誤ると発火、爆発したり、悪臭を発生したり、腐食性のガスを発生するものもあります。さらに、環境や人体に悪影響を及ぼす毒性物質が含まれている可能性もあります。  これら危険性・有害性のある化学物質が、場合によっては幾種類も使用されていますが、製品あるいはその製造工程上必要不可欠なものが多く、すぐに安全なものに替えるというわけにはいかないようです。

 しかし、その取扱い方を十分に認識し、事前に対策を講じて使用するならば、万一の場合にも、これらの危険・有害性は極めて低く押さえることができます。工場に供給されるいろいろな化学物質の性質や特性、およびその取扱い方法や非常時の対応方法など、安全性にかかわる情報をできるだけ簡潔に整理し、理解しやすく記載されたものが『製品安全データーシート(MSDS)』です。
 MSDSは、1987年に米国で「HAZARD COMUNICATION STANDARD」により、その制度が制定され、その後、国際労働機関(ILO)や国連環境開発会議(UNCED)においても、その必要性が言及されました。日本においては1992年労働省が「労働災害の防止」の観点から、1993年には厚生省が「国民の健康の確保」、通産省が「化学品の適正な流通・消費」の観点から、「化学物質の危険有害性等の表示あるいは安全性に係わる情報提供」等の指針を出し、行政指導において『MSDS』の作成を実施するよう求めました。
 すなわち、この制度は国の行政指導のもとに、化学物質を生産、販売する事業者が自主的にMSDSを作成し、運送、保管を含む需要家に提供することにより、事業従事者の知識向上と安全性を確保することにあります。  石油業界では、このような趣旨にのっとり各社が販売する製品すべてにMSDSを作成し、需要家関係者に提供できるように整備しております。(**なお、MSDSは情報の提供であり、これにより安全性の保証をするものではなく、製品製品の規格書や品質保証書でもありませんので、ご注意ください。**)
 それでは『MSDS』にはどのような項目が記載されているのか、一般的な潤滑油のケースで説明致します。(油種によっては若干記載内容が変わりますので、詳細は実際に潤滑剤製造会社が発行する当該商品のMSDSを参照下さい。)
 MSDSには【表−1】のように、「必須記載項目」と「情報を保有していれば記載する項目」にわけられています。「必須記載項目」にはその製品がどのような危険有害物【表−2】に属するかを明らかにし、一般的な取扱い上においてとるべき措置を網羅しています。 また、「情報を保有していれば記載する項目」は、その製品の基礎的な性質や特性の他、環境や人体に対する危険性や有害性について知見のある範囲で記入するようになっております。
表1 MSDSへの記載項目
必須記載項目情報を保有していれば記載する項目
@ 製造者名、住所、電話(FAX)、担当部署等@ 物質の特定(成分・化学物質名等)
A 発行年月日A 物理/化学的性質(性状)
B 製品名および整理番号B 危険性情報(反応性、安定性等)
C 用途C 有害性情報
D 危険有害性の分類(分類名称*1)D 環境影響情報
E 応急措置E 応急措置
F 火災時の措置 
G 漏出時の措置 
H 取扱い及び保管上の注意 
I 暴露防止措置 
J 廃棄上の注意 
K 輸送上の注意 
L 適用法令 
J 廃棄上の注意 

表2 「表1」*1における 危険有害性分類と「分類の名称」

@ 爆発性物質E 禁水性物質表中 ○;石油製品の一部が該当
A 高圧ガス○F 酸化性物質
B 引火性液体◎G 自己反応性物質◎;一般に使用される燃料油・潤滑剤
C 可燃性固体○H 急性毒性物質
  またはガスI 腐食性物質
D 自然発火性物質J その他の有害物質
 潤滑油およびグリース類は引火性液体として分類されています。火気を近づけたり、高温の状態にしないで下さい。万一火災が発生した場合は、放水せず、空気を遮断する粉末・炭酸ガスや泡消火をおこなって下さい。 切削油や防錆油など一部製品には素手で扱うと皮膚障害をおこしたり、ミストを多量に吸込むと急性毒性を示すこともあります。  また、特殊製品を除いては、多くの炭化水素の混合体であり、個々の物質として特定することはできません。(従って、物質名は「石油系炭化水素」と記載されることが多い。) これに若干の添加剤が添加されていますので、一般的には「潤滑油添加剤」と記載されている場合が多いようです。(グリースでは増ちょう剤の金属石鹸基が表示されていることが多い。)  石油製品は、保管・輸送に際しては消防法等の規制を受けますし、廃棄にあたっては産業廃棄物して処分しなければなりません。(石油製品は自然界で分解されにくく、環境汚染の原因にもなります。)
 ところで、最近人体・環境に対する有害性の認識が高まるにつれて、需要家担当者からは刺激性や急性毒性、発がん性あるいは慢性毒性といった項目が注視されています。 ((社)潤滑油協会のアンケート調査結果より ) このため、石油業界ではこれらの情報をできるだけ多く入手することに努めております。なかでも、「発がん性」については海外の知見を取入れ、米国"OSHAの基準"とEU指令"Commission Directive 94/69/EEC"に基づいた自主規制を定めました。 この分類では、ほとんどの潤滑油およびグリースの基油類は「発がん性について分類はできない」または「発がん性物質の分類に適用されない」となっております。
このような有害物質に関する情報は、急速に開示されつつあり、適時にそれらを確認・整理しMSDSに記載していくこととしております。
参考文献;石油連盟「MSDS作成の手引き」他

 
 

 
Copyright 1999-2003 Japan Lubricating Oil Society. All Rights Reserved.