ID-351 振子式摩擦試験について
 
 潤滑油の摩擦係数を測定する“振子式摩擦試験”について説明します。
 また、代表的な潤滑油のデータもあわせて紹介致します。
 
 潤滑油の潤滑性能のなかで、いわゆる油性といわれるものの量的な表示方法として、摩擦係数(境界摩擦係数)が古くから測定されてきました。しかしながら、境界摩擦の大きさは潤滑油の種類のみならず、摩擦条件によっても異なってきます。そこで、摩擦係数の測定は、特定の装置により、特定の条件を選んで求めることになるわけですが、振子式は摩擦係数の測定方法として最も代表的な方法であり、我が国では曽田教授の考案になるT型振子式摩擦試験機が広く利用されています。このT型振子試験機には、摩擦面の形状の違いによってI型とII型がありますが、ここでは主としてII型についてご説明いたします。
 
1.試験機の原理と構造
 
 振子式摩擦試験の特長はごく低速の滑り条件における運動摩擦係数を求めるものであります。
 その原理は振子の支点を摩擦面に利用し、その摩擦面を試料油に浸漬して、振子の振動の減衰がこの箇所の摩擦モーメントになることから摩擦を測定するものです。
 構造の概略は図1の通りです。1.2が摩擦面で、円筒と4個の鋼球の組み合わせからなり、3は重垂、4は振子に固定した針であり、振子がT字型をなしています。この針で目盛板5から振子の振巾の減少を目測します。振子の支点の支え棒は、1の円筒の軸(2φ×30mmの焼入炭素鋼ラップ仕上げ)で、両側2個づつ4個の3/16″ベアリング用鋼球で受けられています。
 したがって摩擦面は1と2の間にできる4個の点接触により構成されています。(なお、I型は円筒と同じ材料の90°V型ブロックにより構成され、その接触は線接触をなしています。)
 

 
図1 T型振子式摩擦試験機略図
 
2.測定法
 
 測定法は、洗浄乾燥した試験片を装置に取り付け、試料油に浸漬し、振子を一定角度(初期振巾)から自然に振らせます。振子の指針で読みとられる振子の減衰は、振動回数に対して直線状を示し、繰返し振子を振らせて定常状態に到った時の測定目盛より摩擦係数を求めます。
 すなわち、摩擦係数は振子の初期振巾とその減衰を測定することにより算出するわけで、摩擦係数μは振子の運動方程式から次式で与えられます。
 
μ=C×(Ao−An)/n

 
 ここに、Aoは初期振巾(ラジアン)、Anはn振動後の振巾(ラジアン)、nは振動回数です。Aoは通常0.6〜0.7ラジアン程度を採用しています。
 また、Cは試験条件によって定まる定数で、標準の試験条件ではC=3.2です。
 なお、標準試験条件は次の通りです。
横軸荷重: 80g×2(支点より34cm)
縦軸荷重: 40g(支点より10cm)
振子の周期: 約4sec
平均接触圧力: 74kg/mm2
最大すべり速度: 1.0mm/sec
 
 
3.測定例
 
 上記の条件で測定した一例を下表に示します。一般に添加剤を含まない潤滑油の摩擦係数はおおむね0.15以上であって、粘度が高くなるほど低くなり、精製するほど高くなります。添加剤、特に油性向上剤や極圧添加剤(油性向上効果のあるものが多い)を含む潤滑油では低い値を示します。

摩擦係数測定例(測定温度:室温)
試 料 油 摩擦係数
乾燥摩擦(潤滑剤なし) 0.45
水道水 0.40
流動パラフィン2号 0.36
添加タービン油(VG32) 0.21
工業用循環油(VG32) 0.17
工業用循環油(VG100) 0.16
摺動面専用油(VG56) 0.10
油圧兼用摺動面油(VG56) 0.11
極圧ギヤー油(VG220) 0.12
自動車用極圧ギヤー油 0.14
 
 
 振子摩擦試験は潤滑におけるさまざまな要因を単純化し、なるべく純粋な状態で境界摩擦係数をとらえることを目的としたものであります。
 
 したがって、実際の機械の潤滑部の摩擦と関係づけることは一般的に不可能であり(摩擦を左右する要因は、油以外たとえば摩擦面の形状、材質や仕上げ精度、運動条件あるいは温度などいろいろあり、むしろ油以外の要因が油そのものより大きな影響を与える)また意味のないことが多いのです。
 
 しかしながら、いちじるしく単純化したこのような状態でこそ油の属性としての摩擦をとらえるのであって、金属表面における油の界面化学的性質―――金属表面への油の吸着、ぬれやひろがりの性質―――を摩擦という概念で求めているのがこのような油性試験であるといえます。
 
 

 
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