ID-S80 代替冷媒用冷凍機油について 冷媒、洗浄溶剤、発泡剤、エアゾール用ガスなどに用いられていたCFC(クロロフロロカーボン)中の塩素が、有害紫外線から地球を守っているオゾン層を破壊するという仮説が1974年ローランド博士によって発表され、その事実を実証すべくオゾン層の観測が行われた。1987年に南極上空でオゾンホールが観測されるに至り、同年モントリオールにおいてCFC規制の合意が成立した。さらに、1992年にはHCFC(ハイドロクロロフロロカーボン)に関しても削減・全廃スケジュールが設定された。 これらスケジュールに基づいて代替冷媒の開発が行われ、並行して冷凍機油の選定が行われた。その結果、1995年中にオゾン層に対し影響の大きいCFC-12を使用していた冷蔵庫およびカーエアコンに関してHFC-134aへの移行が終了し、現在はエアコンに使用されているHCFC-22のHFC(ハイドロフロロカーボン)系代替冷媒への移行が開始されはじめた段階にある。HFCとしては混合冷媒であるHFC-410AおよびHFC-407Cがそれぞれルームエアコンおよびパッケージエアコンに使用される予定である。 冷凍機油メーカーに求められた命題は、新冷媒のHFC(ハイドロフロロカーボン)に対しても旧冷媒と同様に問題ない潤滑油を開発することであった。旧冷媒のCFC-12やHCFC-22は分子中に塩素を含むため、鉱油と親和性が強く容易に混じり合うことおよび塩素が耐摩耗性に大きな効果を示すが、新冷媒のHFCは、極性が強いことおよび冷媒同士の水素結合による相互作用が強いため鉱油とは混じりにくいこと、および耐摩耗性に及ぼす効果がCFCやHCFCに比べて小さいという特徴がある。これらの性能の改善は冷凍機油側または摺動部品側に求められたのである。 カーエアコン油としてはおもにPAG(ポリアルキレングリコール系)に摩耗防止剤を添加したものが採用され、冷蔵庫油としてはレシプロタイプにはポリオールエステルが、ロータリータイプにはアルキルベンゼンに摩耗防止剤を添加したものが採用された。 アルキルベンゼンは新冷媒と非相溶であるが、最も懸念されたオイル戻りには問題がないことが証明されている。アルキルベンゼンは加水分解に問題がなく、系内の汚染物質の混入にも影響を受けにくく、さらにコスト的にも有利であり、意外なことに冷媒の冷凍機油へのとけ込み量が少ないことより冷媒量も少なくてすむという特徴がある。ただ、アルキルベンゼンは冷媒と相溶しにくいことから、装置側で若干の変更が必要である。冷蔵庫用途にアルキルベンゼンが広く使われていない理由は、ひとえに冷凍機油は冷媒と相溶性が必要であるという観念が根強いからと思われる。 ルームエアコンにはウィンドウタイプおよびセパレートタイプがある。これらの新冷媒対応機器は今秋より生産が開始されている。ルームエアコンはわずかであるが、設置の際に空気および水分の混入の可能性があるため酸化安定性に優れかつ加水分解を受けにくい構造のポリオールエステルがおもに使用されている。ポリオールエステル以外には、アルキルベンゼンおよびポリビニルエーテルも一部機種で使用される予定となっている。 1台のコンプレッサーで多くの部屋を空調するパッケージエアコンでは、配管長が長いこともあってアルキルベンゼンは使用が難しいとされている。パッケージエアコン用の冷凍機油としてはポリオールエステルおよびポリビニルエーテルが使用される予定である。 「出典」 |