過去においては@の寿命が問題であったが、最近は市場の要求品質の高級化、エンジンの信頼性や軸受性能の向上などからAの使用限界寿命の判定が主流であり、ここでもAの考え方で述べることとします。一般的なすべり軸受は流体潤滑状態、つまり直接金属接触をせず流体油膜を介して作動するので寿命は半永久的です。しかし、用軸受は荷重の大きさと方向が変わる動荷重軸受であり、過負荷や長時間使用などにより疲労することがあります。またエンジンには流体潤滑が成立しない起動・停止があることや、異物の進入、精度不良、潤滑油メンテナンス不良などから流体膜が切れたりして、軸受の摩耗や焼付き、腐食などが発生しやがて寿命に至る場合があります。
エンジンの用途は自動車、船舶、建設機械、農機、汎用など多岐にわたり、各用途別に軸受寿命を述べるにはデータ、紙面とも不足するので、ここでは乗用車の例を紹介したいと思います。図1は乗用車の走行距離別軸受摩耗量を示したものですが、軸受材質により摩耗量が異なることがわかります。乗用車の耐久寿命は10〜25万km程度ですがエンジン軸受の寿命は騒音や振動悪化などから肉厚摩耗量20μm程度で限界判定されることが多いようです。アルミ合金軸受材の肉厚摩耗量は、10μm以下で非常に良好であり耐久性は十分ありますが、オーバーレイ付き銅鉛合金軸受(ケルメット)の場合は摩耗量にバラツキが見られ、ほぼ10〜20万km程度の寿命と思われます。これは厚さ20μm程度の軟質オーバレイが摩耗しやすいことに加え、軸の材質や精度、オイルメンテナンスなどの影響を受けやすいためで、オーバレイの耐摩耗性向上が今後の長寿命化の課題といえるでしょう。なお、今回図表には示していませんが中・大型トラック用ディーゼルエンジンではほぼ100万km前後、船舶用ディーゼルでは8000〜16000時間程度が軸受の寿命レベルです。軸受寿命はエンジンメーカの要望を必ずしも充分満足するレベルではなく、長寿命化にはまだ課題が多いと思われます。 |