ID-S13 エンジン用滑り軸受の寿命はどのくらいか
 
 エンジン用すべり軸受の寿命はどのくらいあるか。
 すべり軸受の寿命についての考え方は、各エンジンメーカや軸受メーカ独自の判定基準で寿命判定されており、公的に統一された定義や判定基準があるわけではありませんが、一般に以下の2つの考え方に大別できるものと思われます。
 @ 破壊寿命;疲労や焼付きで軸受本来の機能が果たせなくなり寿命と判定するもの。
 A 使用限界寿命;軸受の基本機能としては使えるが、摩耗によりエンジン騒音や振動増加などから使用限界とみなすもの。
 過去においては@の寿命が問題であったが、最近は市場の要求品質の高級化、エンジンの信頼性や軸受性能の向上などからAの使用限界寿命の判定が主流であり、ここでもAの考え方で述べることとします。一般的なすべり軸受は流体潤滑状態、つまり直接金属接触をせず流体油膜を介して作動するので寿命は半永久的です。しかし、用軸受は荷重の大きさと方向が変わる動荷重軸受であり、過負荷や長時間使用などにより疲労することがあります。またエンジンには流体潤滑が成立しない起動・停止があることや、異物の進入、精度不良、潤滑油メンテナンス不良などから流体膜が切れたりして、軸受の摩耗や焼付き、腐食などが発生しやがて寿命に至る場合があります。
 
 エンジンの用途は自動車、船舶、建設機械、農機、汎用など多岐にわたり、各用途別に軸受寿命を述べるにはデータ、紙面とも不足するので、ここでは乗用車の例を紹介したいと思います。図1は乗用車の走行距離別軸受摩耗量を示したものですが、軸受材質により摩耗量が異なることがわかります。乗用車の耐久寿命は10〜25万km程度ですがエンジン軸受の寿命は騒音や振動悪化などから肉厚摩耗量20μm程度で限界判定されることが多いようです。アルミ合金軸受材の肉厚摩耗量は、10μm以下で非常に良好であり耐久性は十分ありますが、オーバーレイ付き銅鉛合金軸受(ケルメット)の場合は摩耗量にバラツキが見られ、ほぼ10〜20万km程度の寿命と思われます。これは厚さ20μm程度の軟質オーバレイが摩耗しやすいことに加え、軸の材質や精度、オイルメンテナンスなどの影響を受けやすいためで、オーバレイの耐摩耗性向上が今後の長寿命化の課題といえるでしょう。なお、今回図表には示していませんが中・大型トラック用ディーゼルエンジンではほぼ100万km前後、船舶用ディーゼルでは8000〜16000時間程度が軸受の寿命レベルです。軸受寿命はエンジンメーカの要望を必ずしも充分満足するレベルではなく、長寿命化にはまだ課題が多いと思われます。
 

 
図1 市場における乗用車用エンジン軸受の肉厚摩耗量
 
 先に述べたように、エンジン仕様は多岐にわたり使用条件や環境も多様な使われ方があります。そのためにエンジンメーカの軸受に対する期待・要求寿命は、エンジンの種類、用途、大きさなどによリ大きく異なります。また、自動車用軸受はエンジンや車両の寿命と同じである場合が多いですが、大型船舶用エンジンなどは長期間使用のために軸受は定期交換され、エンジン寿命の方がかなり長い例もあります。一般的な要求寿命の例を表1に示しました。なお、市場におけるメンテナンスフリーや長寿命保証などから、今後さらに長寿命化への要求は高まるものと予測されます。 
 
表1 エンジン用途別の軸受要求寿命の例
 
エンジン種類 ガソリンエンジン ディーゼルエンジン
自動車用 その他
用途 乗用車 商用車 小型 中型 大型 農機 船舶 汎用
要求寿命 10〜25万km 20〜40万km 10〜40万km 50〜100万km 100〜150万km 1999-2003〜10000時間 5000〜1999-20030時間 400〜1999-20030時間
「出典」
  すべり軸受Q&A 月刊トライボロジ1993.8 p37,1993.9 p35
 
 

 
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