ID-S32 すべり軸受はどのようなところに使われているか
 
 
 すべり軸受はエンジン用軸受に代表されているが、他にはどのような箇所に、どのような形状で、どのように使われているのでしょう。
 
 すべり軸受はエンジン用軸受として最適であり、すべり軸受の代表例であることは周知でしょう。ところが、よくよく見渡してみるとその使い方は千差万別で、エンジン用軸受はその一例に過ぎない、ということも事実です。以下にすべり軸受の適用例、その種類を構造と材質面から、最後に軸受の選択について述べることとします。
 
●すべり軸受の適用例
 すべり軸受が使われている主なものを、大きさの順に並べたのが図1です1)。軸受の大きさでは、この中で最も大きな水車発電機のスラスト軸受の面積が10,000cm2、逆に最も小さな腕時計軸受は0.001cm2であり、その差は実に1億倍もあるのに驚かされます。この他にも種々の適用例があり2)、全ての機械、機関において多くのすべり軸受が使われています。
 

 
図1 すべり軸受の大きさ
 
 
●すべり軸受の種類
 すべり軸受は、荷重方向により表1表2に示すように、軸芯の方向に直角に荷重がかかるジャーナル軸受と、軸芯の方向に、平行に荷重がかかるスラスト軸受に大別されます3)。荷重指示機構から分類すると、流体潤滑軸受(動圧軸受)、スクイーズフィルム軸受、静圧軸受に分かれます。主要な流体潤滑ジャーナル軸受の構造を図2に示しました4)。(a)は最も一般的な全周軸受で、動荷重の場合に適しており、これに対して(b)の部分軸受は、静荷重の場合に適しています。の浮動ブシュ軸受は、高回転用に使われます。(d)(e)(f)の軸受円周を数等分した多面軸受は、軸芯を振れさせないようにしたもので、すきまを最小限にしても、焼付かせない工夫がしてあります。
 
表1 ジャーナル軸受の分類

 
 
表2 スラスト軸受の分類

 
 

 
図2 流体潤滑ジャーナル軸受
 
 
 次に軸受材料について述べます。軸受材料の種類は、表3の潤滑機構別適用例に示すように、使われる潤滑状態により大きく異なり5)、その状態によって軸受の負荷能力も大きく変わります。
 
表3 潤滑機構別適用例

 
 
 潤滑状態を簡単に説明します。
(1)流体潤滑は周りに十分潤滑油があり、荷重は流体油膜によって支持され軸と軸受が直接接触していない状態をいい、大きな軸受負荷能力が得られます。
(2)境界潤滑は、局部的に固体接触もみられますが、大部分は流体油膜が存在する状態をいいます。
(3)涸渇潤滑は、セミドライとも呼ばれるもので、油切れをして大部分が固体接触し、すべり面の凹部にわずかな油が残っている程度の状態をいいます。(4)無潤滑は、固体潤滑剤以外の潤滑剤は全くない乾燥摩擦で通常、ドライと呼ばれる状態をいいます。潤滑状態が乾燥摩擦に近づくにつれ、軸受負荷能力は減少します。
 
 
 油膜の形成が、期待できる流体潤滑や境界潤滑の場合には、図3に示す金属系のバイメタル材料が使われ、逆に殆ど期待できない涸渇潤滑や無潤滑の場合は、図4に示す樹脂系のバイメタル材料が使われます。最近では、境界潤滑や乾燥摩擦において、セラミック、黒鉛なども使われています。

  
図3 金属系バイメタル材料    図4 樹脂系バイメタル材料
 
 
●軸受の選択
 負荷能力による軸受の選択の目安を図5に示しました6)。各種すべり軸受の場合、軸受幅を軸径と同じ(L/D=1)と仮定し油は中粘度の鉱油としてあります。ドライベアリング、含油軸受、ころがり軸受は10,000時間寿命に対するものです。多くの場合、軸受の選択においては負荷能力以外に環境条件、周辺の温度や振動なども合わせて総合的に判断していく必要があります。
 

図5 負荷能力による軸受の選択
 
 
 以上で述べたように、すべり軸受の使われ方は千差万別であり、すべり軸受の使用に際して、すべり軸受は、常に流体潤滑が確保されることを目標とするのが第一です。ただし、実用上の制約から、境界潤滑や乾燥摩擦で、使用しなければならない軸受けがあることも事実です。
「参考文献」
  1)木村好次、岡部平八郎;トライボロジー概論(1982)
  2)機械図集“すべり軸受”日本機械学会(1969)
  3)4)潤滑ハンドブック、日本潤滑学会(1987)
  5)6)森早苗:すべり軸受と潤滑(1975)
「出典」
すべり軸受Q&A 月刊トライボロジ1992.9 P26-27
 
 

 
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