ID-S35 金属系すべり軸受材料にはどんなものがあるか
 
 
 金属系すべり軸受の種類を表1に、軸受のすべり面を構成する軸受合金のライニングに必要な重要特性を表2に示します。
 
表1 エンジンベアリング、ブッシュ・ワッシャ用金属系すべり軸受材料
 
(a) エンジンベアリング用
  相当規格化学成分(wt%)
種類大豊規格JISSAECuPbSnAlInCrSi
銅鉛合金H24SKJ449bal24<1.25
銅鉛合金HD240LBC6799bal233.5
アルミ合金SA1511212.5 bal0.22.7
アルミ合金AT200783120 bal
オーバレイLN8019bal11
オーバレイLN82192bal10
オーバレイLN760bal7.5 5.5
 
(b) ブッシュ・ワッシャ用
  相当規格化学成分(wt%)
種類大豊
規格
JISSAEAlCuSnPbSbSiFeCr





鉛青銅HF2LBC3797bal10.010.0<0.35
鉛青銅HF3LBC1798bal4.08.0<0.35
鉛青銅HF16LBC6799bal3.523.0<0.35
鉛青銅HF161bal3.023.03.0 1.0
リン青銅PBP2-SC5191bal6.0<1.00.2
アルミ合金AT60AJ2780bal1.06.01.5
アルミ合金AT200783bal1.020.0<0.3
アルミ合金SA151bal1.012.52.02.7 0.2
ホワイトメタルL200WJ1015<0.51.2bal14.5




リン青銅板C5191PC5191bal6.50.2
リン青銅鋳物PBC2PBC2bal10.50.15
鉛青銅鋳物LBC3LBC3bal10.010.0<0.3
鉛青銅鋳物BZ2bal7.07.0<0.2
アルミ板A5052PA5052Pbal<0.1<0.25<0.4 0.25(Mg
2.5)
 
 
表2 軸受合金の重要特性と各材料の性能
(性能は最も優れたものを5とする。)
軸受材料耐疲労性耐焼付性埋収性なじみ性耐食性耐摩耗性
エンジン
ベアリング
銅合金LN80/H24S
LN82/H24S
LN760/HD240
アルミSA151
ブッシュ・ワッシャ銅合金HF2
HF3
HF16
HF161
PBP2-S
アルミAT60
AT200
SA151
ホワイトL200
 
 
 金属系すべり軸受の代表的な用途は、エンジンベアリングとブッシュ・ワッシャ類です。エンジン用軸受材料は銅鉛系合金とアルミ系合金が主流で、ホワイトメタルの使用量は非常に少ないです。一方ブッシュ・ワッシャ類は使用時の潤滑条件、軸の運動形態が非常に多岐にわたっているために金属材料の種類だけでも非常に多くなっています。次に代表的な用途に対する軸受材料の選択の例を示します。
 
1)エンジンベアリング
 
・量産型ベースエンジン用軸受材料
 現在のガソリン用量産型ベースエンジンはその殆どが低コスト設計が基本となるため、クランク軸は鋳鉄軸を用いる場合が多いです。軸受への負荷もそれほど大きくないことから、低コストのSi入りのアルミ合金軸受1)を用いるのが一般的です。
 
・中、小型ディーゼルエンジン用軸受材料
 乗用車用ディーゼルエンジン等の小型エンジンではガソリン用ベースエンジンと同様低コスト設計が基本で、低コストのSi入りのアルミ合金軸受を用います。しかし排気量3〜6リットルの中型エンジンではアルミ合金軸受を用いる場合も、ケルメット軸受を用いる場合もあります。どちらを選択するかはエンジンの設計思想によりますが、ケルメットを選ぶ場合でもエンジンが直噴で過給の如く高出力を目指すものでなければ24%Pbを含む銅鉛合金にInを含まないPb-Sn系のオーバーレイを付けた軸受を選ぶこともあります。
 
・高速高出力ガソリンエンジン用軸受材料
 DOHC、ターボチャージャー、4バルブ等を装備した高性能高出力エンジンでは軸受の使用環境条件がすべり速度、荷重ともに最高レベルに達します。特に高速回転のため軸受のすべり速度が大きくなり、摩擦熱の発生などでかなりの高温環境となります。そのため耐疲労性、耐食性共に最高レベルの軸受材料を必要とします。
 この種のエンジンに使用される軸受材料は鉛青銅合金をライニング材に、オーバーレイとしてはInを添加した耐疲労性の優れた材料を選びます。
 
 
2)ブッシュ・ワッシャ
 
・ピストンピンブッシュ
 コンロッドの揺動のみの運動で回転はありません。面圧はピストンの爆発荷重を直接受けるので優に30MPaを越えます。ここでは一般に10Pb-10Sn-Cu合金が用いられます。
 
・燃料噴射ポンプブッシュ
 ディーゼルエンジン用燃料噴射ポンプは回転部分を軽油で潤滑するので、粘度の低さのため油膜が出来にくくなります。油膜が切れたりすると軸と軸受が金属接触して異常摩耗を起こしやすい。硬質のFe-P化合物を添加したり、あるいはグラファイトを添加した鉛青銅を用います。
 
・トランスミッションブッシュ
 潤沢なミッションオイルがあり、殆どが回転運動であるので流体潤滑状態が期待できます。主に鉛青銅材料を用います。しかしミッションオイルの種類により銅合金の腐食の心配がある場合にはアルミ系合金軸受を用います。
 
・エクステンションハウジングブッシュ
 ミッション用軸受の一つですが、この軸受部分は自動車が始動してから潤滑油が回ってくるまでかなりの時間がかかるため、その間に焼き付かないようになじみ性と耐焼付性の良いホワイトメタルを用いることが多いです。最近は潤滑状態の良い設計になって、アルミ系軸受材も使われています。
参考文献
 1)N.Soda, T.Fukuoka, S.Kamiya and H.Kato; SAE Paper 830308 (1983).
「出典」
すべり軸受Q&A 月刊トライボロジ1992.12 P34-35
 
 

 
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