ID-S36 樹脂系、表面処理系すべり軸受にはどんなものがあるか 樹脂材料は近年のエンジニアリングプラスチックの発展にともない、電機、自動車分野で軸受材料として数多く使用されるようになっています。また自動車などの高性能化にともない、高機能が要求される表面処理系軸受材としては、新手法による材料が採用されるようになってきました。 1.樹脂系軸受材 樹脂材料の中では、潤滑特性の良い四フッ化エチレン樹脂(PTFE)が、樹脂系軸受材として多用され、そのほかポリアセタールやナイロン、ポリエチレン、フェノール樹脂がよく使用されます。最近では高温用としてポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミドなどが用いられるようになっています。 樹脂系摺動材は、樹脂単体で使用されることは少なく、ガラス繊維やカーボン繊維、PTFE、黒鉛、MoS2、オイルなどと複合化され、さらには金属の裏金に補強されて使われます。 樹脂材料とその構成の主な組み合わせを表1に示しました1),2)。 ![]() (1) ソリッドタイプ ソリッドタイプの樹脂軸受は、比較的負荷の小さな家電製品、OA機器などで使用されることが多いです。それらの中から代表的な例を紹介します。 ・ポリアセタール系 ポリアセタールは機械強度、加工性に優れ安価ですが、耐熱性は低く高温では摩耗量が増大するため、数10%まで含油し潤滑性を改善したものが一般的に使用されています。 さらに導電性の付与と耐摩耗性向上のため含油ポリアセタールに黒鉛を添加した軸受材が複写機などのOA機器に採用されています。その組織写真を図1に示します。 ![]() 図1 ポリアセタール系導電軸受の組織写真 ・PTFE系 PTFEは耐熱性、特に摩擦特性の優れた材料ですが、機械強度は小さく耐摩耗性も小さいため、単体で使用されることが少ないです。強度向上のため他の樹脂や鉛、銅の粉末、無機系充填材が添加されます。 (2) バイメタルタイプ バイメタルタイプは、樹脂の機械的強度と熱伝導性の不足を裏金の金属で補うことにより樹脂材に比べ大幅に軸受性能を向上させています。 バイメタルタイプには、平板に樹脂をコーティングしたもの、さらに高負荷用に鋼板上に銅合金の粉末を焼結したところに樹脂を含浸したものがあります。広く使用されているのは、高負荷用のバイメタルタイプです。 ・PTFE系 PTFE系バイメタル材は、鉛青銅焼結板の上にPTFEと鉛、亜鉛、無機系充填材などを入れ含浸焼結し、数十μmの摺動層を持つ構造になっています。主にドライな摺動条件下で使用され荷重を支える鉛青銅粒の上をPTFEが覆い低摩擦性能を発揮しています。その組織写真を図2に示します3)。主な用途としては自動車のトランスミッション、ショックアブソーバ、工作機、家電製品の各種軸受などがあります。 ![]() 図2 PTFE系バイメタル軸受の組織写真 ・ポリアミドイミド系 ポリイミド系バイメタル材は、オイルはわずかにあるが、負荷の大きな(特に滑り速度が大きい)部位で使用できるように、耐熱性の優れたポリアミドイミドを用い、黒鉛、MoS2を混合して鉛青銅焼結板上に含浸焼成したものです。この材料の耐熱付、耐摩耗性は上のような条件下ではPTFE系に比べ大幅に向上しています。空調用のコンプレッサの軸受として採用されています。 2.表面処理系摺動材 最近の自動車の高性能化による摺動条件の過酷化、軽量化にともなうアルミとの摺動、フロン規制などの問題に、摺動用表面処理材にて対応することが期待されています。従来の熱処理、メッキに代わる表面処理法による材料を表2に示します4)。
その中で、対アルミの摺動にて良い結果の得られた例について紹介します。 (1) ボロン(ほう化)処理 アルミと微少油量下で高速で摺動する部位で、耐焼付性、耐摩耗性を向上させるためには、鋼材へのボロン処理が有効です。ボロン処理の特徴としては、表面の鉄のほう化物の硬さはHv=1300〜1800と大きく、鉄の中にほう化物が針状に成長しているため密着は良く、組織が緻密なため損傷しにくく、アルミの凝着も起こりにくくなります。ただし処理温度が800〜900℃と高いのが難点です。 (2) 無電解Ni−Bメッキ 無電解Ni−Bメッキはアルミ−アルミの摺動部で片方のアルミ上にメッキすることにより耐焼付性、耐摩耗性を向上することができます。このNi−Bメッキの特徴は、メッキしたままでHv=700〜800と硬いので熱処理をする必要がなく、アルミとの摩擦係数は油の存在下では大変小さくなります。ベーンタイプのコンプレッサーで使用されています。 |
「参考文献」 1)日本潤滑学会:潤滑ハンドブック(1978) 2)関口 勇:潤滑、28、11、(1983)802 3)大豊工業:軸受デザインガイド(1992) 4)高谷松文:表面技術、41、11、(1990)1074 |
「出典」 |