ID-S39 エンジン用すべり軸受はどのように設計されているか2
 
 
 軸受の諸元としてどんなものがあり寸法はどのように設計されているか?
 表1に軸受の概略形状、設計要素の名称と基本的な機能を示します。以下主要部の標準的な寸法・公差の設計例を述べます。
 
表1 軸受の設計要素と基本的な機能
 

名称おもな役割(基本機能)
軸受幅●軸受基本寸法、適正な面圧、油膜厚さの確保
中央肉厚●適正オイルクリアランスの確保による油膜形成、騒音軽減
オイルリリーフ高さ●くさび油膜の積極的形成
●ハウジングの変形、食い違いなどの影響軽減
●冷却油量の確保
クラッシリリーフ長さ●組み付け時のクラッシュ(しめしろ)による変形の逃がし
●潤滑油による異物の排除
足高さ(クラッシ)●しめしろの代用特性でハウジングへの固定、回り止め
油穴●潤滑油の出入口
角度
10油みぞ●ベアリングの潤滑
●他部位への油送路
11位置●ベアリングの軸方向、円周方向の位置決め
●類似品との誤組み付け防止…幅、位置を変更
12
13高さ
14長さ
15張り●組み付け時のハウジングへのなじみ
●組み付け時のハウジングからの脱落防止
 
 
1.軸径、軸受幅と肉厚
 軸径と軸受幅は主にクランク軸剛性、エンジンスペース、軸受負荷条件などから決定されます。肉厚は薄肉型と厚肉型があり、一般にコンロッド軸受は薄肉型、溝や油穴を設ける主軸受は厚肉型が使われます。標準設定例を表2に示します。
 
表2 軸径に対する軸受幅と板厚 単位:mm
軸径d軸受幅LL/d比呼び板厚
薄肉型厚肉型
φ30〜4010〜250.40〜0.831.51.5
φ40〜6516〜350.25〜0.872.0
φ65〜9025〜550.28〜0.852.02.5
φ90〜12535〜800.28〜0.882.53.0
 
 
2.オイルクリアランス(軸受すき間)
 軸受の中央肉厚と軸径で決まるオイルクリアランスは油膜の形成や冷却、振動吸収などから重要であり一般的なめやすを表3に示します。最近は低騒音化からクリアランスのばらつきを押さえるために軸受肉厚や相手軸径などで数サイズに区分し選択嵌合する例も多いです。
 
表3 オイルクリアランスのめやす(C/d比)
荷重パターンC/d比ねらい最小値最大値
爆発荷重主体0.0008焼付き防止から
0.0005以上
騒音防止から
0.0015以下
慣性荷重主体0.0010
C:オイルクリアランス、mm d:軸受、mm
 
 
3.オイルリリーフとクラッシュリリーフ
 オイルリリーフは中央肉厚に対し両側を暫時薄くしたもので通常5〜20μm程度薄くし、くさび油膜の積極的形成やハウジングの変形を吸収したり、油量増加による冷却作用などの機能を持ちます。クラッシュリリーフは合せ目両端部の逃しで組付け時の変形を吸収し、異物の排除にも効果があります。V型エンジンの主軸受や中・大型ディーゼルエンジン用軸受は負荷容量の確保、低騒音化などからリリーフを小さく設計する例が多いです。一般的な設計寸法を表4に示しました。
 
表4 リリーフ寸法 単位:mm
軸径dオイルリリーフクラッシュリリーフ
位置逃がし量 T−t長さ逃がし量 H
φ30〜406.0−0.005
−0.015
4±10.01〜0.03
φ40〜659.56.5±1.50.02〜0.05
φ65〜90−0.005
−0.020
φ90〜12513.00
−0.020
9.5±2.0
 
 
4.クラッシュ(足高さ)
 半割り形軸受のしめしろは、直接外径を測定できないので図2のようなゲージにより、円周長を測りしめしろの代用値として用います。この寸法Hをクラッシュまたは足高さと呼び、圧縮応力で100〜400MPa程度に設定されます。またアルミブロックなど軽合金ハウジングの場合は、熱膨張量差を考慮してクラッシュを大きくする必要があります。
 

 
図2 足高さの測定法
 
 
5.油溝・油穴
 潤滑は一般にハウジングから主軸受に給油され、一部の油がクランク軸を給油しコンロッド軸受へ供給されます。このために主軸受には油溝と油穴が設けられ、コンロッド軸受は小端部やピストン冷却用油穴の設定例が多いです。なお最近の主軸受では、負荷容量増加や低騒音化からロア側の溝を廃止する例も増えています。代表的な形状を図3に示します。
 

 
図3 代表的な軸受の形状
 
 
6.爪
 通常エンジン用半割り軸受では、組付け時の円周方向と軸方向の位置決めのために合わせ目に爪を設けます。主軸受は、油のサイドフローを押さえるために中爪とし、コンロッド側は、ボルト間ピッチを押さえ、冷却油量増を狙い端爪とすることが多いです(図3参照)。
 
7.張り
 張りとは図4に示すように、軸受自由状態の外径寸法と相手ハウジング内径の差をいい、組付けの際にハウジングへなじませたり脱落防止の機能を持ちます。一般にハウジング径より0.5〜1.5mm程度大きくします。
 

 
図4 軸受の張り
「参考資料」
・大豊工業(株) 軸受デザインガイド(1992)
「出典」
・すべり軸受Q&A 月刊トライボロジ1993.7 P33-34
 
 

 
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