ID-S42 いろいろな軸受を使い分ける
 
 
 ひと口にベアリングといっても、玉やころを使用する転がり軸受から油潤滑の滑り軸受、メタル・ブッシュ、焼結合金製の含油軸受、プラスチック軸受や気体軸受、磁気軸受と大変多くの種類があります。いろいな種類の軸受から、使用条件や目的に適合したものを選ぶガイドを以下に示します。
 
 トライボロジーの原理には、図1のように(1)自己潤滑、(2)境界潤滑、(3)固体潤滑、(4)流体潤滑(動圧形、静圧形)、(5)転がり接触、(6)電磁力浮上などいろいろの方法があり、時と場合に従って使いわけられています。
 

図1 トライボロジーの原理
 
 
 回転する軸受について、図2にこれらの原理による軸受が使われている様子を概念的に、表1にいろいろな軸受の特性を示してみました。
 

 
図2 いろいろの軸受の使いわけ
 
 

表1 いろいろの軸受の特性
  軸受形式
 
 
 
 
 
 
軸受特性  
転がり
運動
滑り運動
接触形無接触形
転がり
軸受
メタル、
ブッシュ、
プラスチック
軸受、
焼結含油軸受
油軸受空気軸受磁気軸受
動圧形静圧形動圧形静圧形
回転精度
負荷容量
剛性


×
×
×





×
×



×
×
減衰性
限界回転速度
温度上昇
×

×
×
×

×
×








軸心制御
制作難易
保守
×

×

×
×



×
×

×

×
寿命
  単体
価格  
  補機


 
×

 


 


 
×

×
 

×
 
×

×
 
×
◎:優 ○:良 △:普通 ×:劣
 
 
 転がり軸受は、荷重、回転速度、耐久寿命などの使用条件が中程度の範囲で最も多く使われています。
 
 使用条件がゆるい場合には、メタル・ブッシュ、焼結合金製の含油軸受、プラスチック軸受などの滑り軸受が境界潤滑状態で使われます。
使用条件が厳しくなると、再び滑り軸受が使われ、油や空気を作動流体とする動圧または静圧形の流体軸受や制御形の磁気軸受が軸と軸受との間を非接触を保って使われます。
しかし、流体軸受や磁気軸受は性能は良いが、価格が相当に高くなります。
 
 一般に、軸受が機械に組み込まれて発揮する性能−−許容荷重、寿命、音・振動、剛性、摩擦、高速回転、大きさなどのどれをとってみても、理想的に設計、製作、調整し取付けられた滑り軸受に対して、転がり軸受はかなわないとされています。しかし、現実には図2に示したように転がり軸受の実用実績が多いのは、次のような軸受としての使い易さと経済性、すなわちコスト・パフォーマンスの良さが理由とされています。ちなみに、日本で生産された転がり軸受は22億個(1988年)で、その平均単価は220円となっています。
 
転がり軸受の特長
(1)入念に設計、製作、調整された滑り軸受は高価になります。その点、転がり軸受は専門工場で、国際的にも互換性のある高精度の規格品が大量生産されているので、安価に入手できます。また、転がり軸受の組立て、調整は、機械の軸と穴にはめ合わせるだけで簡単です。
(2)転がり軸受は、使用条件すなわち荷重や回転速度などの変化に対して耐性が大きいといえます。また、油潤滑の転がり軸受では、潤滑系統の故障の際にも流体軸受のように直ちに焼付きません。したがって、航空ジェットエンジンの主軸受のように、高い信頼性を要求される場合には、転がり軸受が使われています。さらに、故障の修理も軸受の交換だけで容易です。
(3)転がり軸受ではグリースを潤滑に使えるので、潤滑油の供給装置と密封装置が簡単になります。ちなみに、日本で生産された玉軸受のうち80%以上は、図3のようなシールまたはシールド型のグリース密封玉軸受となっています。
 

 
図3 密封玉軸受
 
 
(4)転がり軸受には、1個の軸受でラジアル荷重とアキシアル荷重の両方向の荷重を同時に受けることができる軸受−深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受などがあります。流体軸受では、ラジアル荷重とアキシアル荷重は、おのおの別々の軸受で支えるように設計するのが普通です。
(5)転がり軸受では、耐熱鋼などを軸受材料に使って、高温軸受が容易にできます。しかし、流体軸受は軸受に低融点の軸受材料を使うのが普通なので、高温軸受をつくるのが困難であるといえます。
 


「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1990.1 P68-69
 
 

 
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