ID-S49 ハイブリッド玉軸受にはどんな特徴があるのか セラミックスの球を使ったハイブリッド・セラミック玉軸受には、どのような特徴があり、また、どのように使われているのでしょうか? 構造材料としての新素材セラミックスには、
しかし、現状では未だ価格が高い、非破壊検査の方法が確立されていない、衝撃荷重に対して脆いなどの問題を残しています。 ●何故セラミックスを軸受に使うのか 機械は常に小形、軽量化によって効率を高めることを求められています。また、原動機としての熱機関では、高温に耐えることが熱効率を高めることになります。 従って、これらの機械に使われる軸受の材料を鋼からセラミックスに変えることができれば、その効果は大きいといえます。 ●どのようなセラミックスを使うのか 構造材料として使われるセラミックスには、いろいろの種類があります。 転がり軸受は玉やころ(転動体)が内輪と外輪の軌道と点接触または線接触します。そして、その最高の面圧は3〜4GPaになることもあります。また、軸受の寿命は、転がり運動によって、このように高い接触応力が繰返された結果おこる材料の疲れが原因になります。 転がり疲れによって表面または表面から下の内部に発生するクラックが伝播して、表面のフレーキングになります。そして、いろいろのセラミック材料で、転がり疲れによるフレーキングを起させると、現在使われている転がり軸受用鋼に似たフレーキング破損の形態になるのは、窒化珪素Si3N4しかないことが判りました。それ以外のセラミックスでは、クラックは表面の局所に限られた形態のフレーキングにはならず、材料全体が破断する破局的な破壊の形態になります。 表1に、Si3N4の材料特性を示します。
●どのような用途に使われるのか 現在、使われているハイブリッド・セラミック軸受は、玉だけにSi3N4セラミック材を使い、内輪と外輪には軸受鋼を使った精密アンギュラ玉軸受が多いです。 用途は、マシニングセンターの主軸です。このスピンドルには、加工能率の向上を求めて近年、高速化に対する強い要求があります。普通、予圧された組合せアンギュラ玉軸受と薄肉のNN形円筒ころ軸受で回転軸を支えます。そして、高速回転で低温度上昇が要求されます。温度上昇は、予圧されたアンギュラ玉軸受の方が大きくなるのが普通です。そこで、この玉軸受の鋼球だけをセラミック球に変えてハイブリッド軸受にすると、玉軸受の温度上昇が低下し、さらにスピンドルの高速回転限界を高めることができます。 ●軸受の温度上昇は低くなる 予圧されたアンギュラ玉軸受を高速回転させると、玉の公転運動によって発生する遠心力のために、玉と外輪軌道との間の負荷が増加します。その大きさは、玉の密度および玉の公転角速度の2乗に比例します。 また、玉の公転運動に起因して、玉にジャイロ・モーメントが働き、玉は内輪と外輪の軌道の間でスピン滑り運動を起します。その結果、温度上昇を大きくします。このジャイロ・モーメントの大きさは玉の公転と自転の角速度および玉の密度に比例します。 玉にセラミック球を使うことによって、玉の遠心力およびジャイロ・モーメントを小さくし、その結果として図1のように、軸受の外輪温度上昇が低下します1)。 ![]() 図1 スピンドルの軸受外論温度上昇 この実験結果は、コンピュータによる摩擦損失の解析結果ともよく一致します2)。 ●軸受の剛性は高くなる アンギュラ玉軸受の玉だけをSi3N4材にすることによって、図2のように軸受の剛性が、若干増加します1)。これはSi3N4の縦弾性係数が、軸受鋼の約1.5倍大きいためです。 ![]() 図2 軸受の剛性(計算値) ●転がり疲れ寿命は軸受鋼を越えた ホット・プレス法で製られたSi3N4材の転がり疲れ寿命が、軸受鋼以上であることは多くの実験で確かめられています。しかし、ホット・プレス法では、素材の形状は方形にしかできないので、これを玉に加工するため、コスト高になります。そのため、素材の形状を玉に近くすることのできるHIP法が使われるようになりました。最近では、HIP法でホット・プレスと同等の転がり疲れ寿命を示す玉をつくれるようになっています。 図3は、6種類のHIP法によるSi3N4材の玉の転がり疲れ寿命試験結果です3)。図のA材およびB材が実用されており、軸受鋼製の玉の計算寿命L10の2倍以上の寿命を示しています。 ![]() 図3 HIP法によるSi3N4球の転がり疲れ寿命 ●耐圧痕性は Si3N4の縦弾性係数が軸受鋼より大きいために、過大な荷重を受けたときに接触部の軸受鋼側に発生する永久変形が、ハイブリッド・セラミック玉軸受では鋼球玉軸受より若干大きくなります。 JISの基本静定格荷重を定める玉軸受の接触応力である4.2GPaを基準にして算出すると、Si3N4球と軸受鋼軌道の組合せは、軸受鋼同士の組合せに比べて、許容される限界荷重が約30%低下します1)。 しかし、工作機械主軸が受ける負荷の程度では、実用上、問題がおこることはありません。 |
「参考文献」
|