ID-S54 転がり軸受の音と振動について
 
 
 回転する軸と軸受との間に、液体である潤滑油しかない滑り軸受に比べて、内輪と外輪の間に玉やころ(転動体)と保持器のある転がり軸受は、軸受から発生する音や振動に対して不利であるようにみえます。
 
 しかし、転がり軸受が家庭やオフィスのような静かさを求める環境の中の機械にも使われていることからも分かるように、転がり軸受の音と振動について、いろいろのことが明らかにされ、その対策も施されているために、問題がなくなっています。
 
 というより、日本の転がり軸受が世界中で使われる国際品になり得た1つの理由は、低振動と低騒音の品質を技術と生産の2つの面から、徹底的に追求した結果であるとさえいうことができます。
 
●音と振動の関係は
 転がり軸受を構成する部品が回転によって振動すれば、軸、ハウジングも振動し、その空気との境界面で空気は振動を起こし、それが音響の原因になります。実際には、軸受から発生する交番減少の周波数のうち、1000Hz以下が振動、それ以上が音響として問題になることが多いです。
 
 表1に、転がり軸受の振動現象と音響との間の関係を示しました。この中で、とくに玉軸受について詳しく調べられています。1)〜3)
 
表1 転がり軸受の振動と音響の関係

 
 
●軸受の構造自体が原因になる
 転がり軸受の軌道と転動体は点または線接触し、接触面応力は3〜4GPaにも達します。そして、軌道と転動体の接触部においても、また軸受全体としても、非線形の“ばね”として弾性的な挙動を示します。
 
(転動体の通過振動)転動体の数が有限の個数であるために、軸受すきまがあってラジアル荷重を受ける場合、荷重線の上に転動体があるときと、そうでない場合には軸受の弾性変形量が異なります。このため、転動体の通過ごとに軸心の移動がおこります。実際には、低速回転のときしか問題になることはなく、また予圧で解決できます。
 
(軌道論の固有振動)軸受を回転させて周波数分析すると、図1のように、いくつかのピーク値をもつことが分ります2)。これは、軸受外輪の固有振動です。一般に、軸受の内輪は外輪に比べて小形で高い周波数の固有振動をもつことと、軸としまりばめで使われることのために、ハウジングとすきまばめで使われる外輪の方が音と振動の原因になることが多いです。
 

 
図1 玉軸受単体の振動とレース音の周波数スペクトル
 
 
 外輪の固有振動にも2つの種類があります。1つは、外輪自体を剛体として、転動体と軌道との間の接触部をばねとする固有振動で、外輪慣性モーメント系角方向固有振動M1と外輪質量系軸方向固有振動AMです。
 
 もう1つは、外輪自体を弾性体の円環とする半径方向曲げ固有振動Rと軸方向曲げ固有振動Aです。これには、夫々、一次と二次の曲げモードのものがあります。
 
 これらの固有振動を励振する原因は、内輪・外輪の軌道と転動体の転走面のうねり(ウェイビネス)や粗さによる外輪の選択共振とされています。したがって、これらの外輪の共振によるレース音を減少させるには、表面の形状と粗さなど仕上げ加工の品質を良くすることです。
 
 玉軸受単体の振動とレース音の関係を表2に示しました2)
 
表2 玉軸受単体の振動とレース音の関係

 
 
(軸受のばねによる振動)2つの転がり軸受で支えられた回転軸系の振動を考えるとき、その軸受部分は対称または非対称の非線形ばねになります。このため、回転軸系にスラスト振動、ラジアル振動、ブラケット共振振動のような自励振動が発生し、うなり音になることがあります。これは、予圧または潤滑剤の選択によって防止できます。
 
●軸受の形状精度が原因になる
 内輪・外輪の軌道と転動体の転走面に比較的大きい山の高さを持った円周方向のうねりがあると、軸受は振動し、そのため一定の周波数をもった音も発生することがあります。
 
 この振動の中でも、軌道輪を剛体とし、転動体と軌道の弾性接触部を線形ばねとみなすと、一定のアキシアル荷重を受け、内輪が回転する玉軸受において、その外輪に発生する半径方向、角方向、軸方向振動の振動数は、軸受の軌道と転動体の転走面の円周方向正弦波状うねりの山数に対して、理論的に表3のようになります2)。特定の山数をもったうねりだけが、この種の振動とびびり音の発生原因になることが分かります。
 
表3 振動を発生させるうねりの山数と振動の振動数

 
 
 回転中の軸受から、これらの振動やびびり音が発生する場合には、軸受の中の部品がもっており、表3から計算される、狙いのうねりを小さくする加工が必要なこともあります。しかし、軸受を取付ける軸またはハウジングの形状の円周方向のうねりが軸受に転写されている場合もあるので、注意が必要です。
 
 玉軸受や円すいころ軸受では、軸受の回転中に保持器が振動して転動体と衝突し、音が発生することがあります。この保持器音には周期性があり、この音が発生しているときには保持器は激しく振動します。この原因は転動体と保持器の間の滑り摩擦によって誘発される保持器の自励振動と考えられています。保持器音は、潤滑剤の選定、軸受の設計によって防止できます。
 
●軸受の取扱い不良が原因になる
 軸受の軌道および転動体の転走面にきず、圧こん、錆があると、リベット打ちのような周期性のあるきず音と振動が発生します。この音と振動は回転速度が一定ならば、その周期が一定ですが、回転速度の低下にしたがって周期は長くなります。玉軸受では、きずが軌道にあるときには連続的に音が発生しますが、きずが玉にある場合には音が発生したり発生しなかったりします。
 
 軸受の洗浄の不十分、潤滑剤の中の異物、回転中の軸受へのごみの侵入がある場合には、非周期性のごみ音と振動が発生します。
 
●転がり軸受の振動と音響については、その原因がほゞ明らかにされ、必要に応じて有効な対策がたてられるようになっているので、実用上、問題は殆どありません。
「参考文献」
  1)五十嵐昭男:ころがり軸受の振動と音響、潤滑、16-4 (1971) 300/310
  2)五十嵐昭男:ころがり軸受の音響、潤滑、22-12 (1977) 751/756
  3)五十嵐昭男:ころがり軸受の振動および音響、潤滑、32-5 (1987) 317/322
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1991.3 P42-43
 
 

 
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