ID-S56 転がり軸受の摩擦はどのような原因で起こるのか 転がり軸受は、ほかのいろいろな軸受と比べて、摩擦が小さいのが特長の1つです。それでは、転がり軸受の摩擦は何故小さいのか、また、どのような原因で摩擦が発生するのか以下に述べます。 滑り摩擦係数の大きさは、いろいろな金属材料について、乾燥摩擦のときにμ=0.3〜0.8程度、油による境界潤滑ではμ=0.1〜0.3程度の値になります。 転がり摩擦は、摩擦による“力”ではなくて“モーメント”の形で現われるので、着力点を決めないと力としての比較ができません。そこで、着力点を玉や円筒の表面に沿った所とすると、転がり接触を使って物体を動かす力は、滑り摩擦力の1/100〜1/1000程度の大きさにすることもできます。 この現象を利用して、動く部分の摩擦による動力損失を小さくしたのが、転がり軸受、ボールねじ、転がり直動案内のような転がり運動を利用した精密機械要素です。 ●転がり摩擦は何が原因でおこるのか 転がり軸受の中で、玉やころは3〜4GPaのように大きな接触面圧で曲率半径が異なる軌道と接触するので、弾性的に変形した後の接触面の形は曲面になるのが普通です。すると、玉やころの転がり運動の際には、この接触曲面の中でミクロな滑り現象がおこり、その結果、滑り摩擦が発生します。 そこで、全く同じ直径の玉同士を接触させると、その弾性接触面は完全な平面になります。この状態で振子による減衰法で転がり摩擦を測定すると、真の転がり摩擦を求めることができます。 その結果、純粋な転がり摩擦は弾性ヒステリシス損失すなわち材料の内部摩擦であることが分りました。そして、その大きさは計算によって求めることができ、玉の場合、荷重の4/3乗に比例して大きくなります1)。 ●深い溝の中を転がる玉の摩擦は 玉軸受の内輪の溝と玉の接触面は図1のように弯曲した曲面になります2)。したがって、玉が転がるときの玉の周速の分布はvB、内輪軌道の周速の分布はv1になります。すると、純粋な転がり運動に必要な、周速が等しいという条件は、vBとv1の交点である接触楕円上の2本の線の上でしか起こらず、その内側Tと外側Uの面の部分では、互に反対方向の滑り運動がおこります。これを玉の差動滑りと呼び、玉の転がり摩擦の主原因になります。その大きさも計算によって求めることができ、荷重の5/3乗に比例して大きくなります3)。 ![]() 図1 玉の差動滑り ●玉のスピン滑り摩擦とは 深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受にアキシアル荷重を加えて回転させると、図2のように、内輪または外輪の軌道のどちらかで、回転軸に対して周速が等しくなるという転がり接触の条件を満たすと、反対側の軌道輪の軌道ではこの条件を満たせなくなります。そして、転がり接触のおこる軌道と反対側の軌道では、玉はその負荷軸のまわりに回転しながら転がり運動することになります。この負荷軸のまわりの玉の回転を玉のスピン滑り運動と呼び、それによって滑り摩擦が発生します。この場合、純転がり運動は、スピン滑り摩擦の大きい方の軌道輪の側でおこります。 ![]() 図2 玉のスピン滑り この滑り摩擦の大きさも、計算によって求めることができ、荷重の4/3乗に比例して大きくなります4)。 ●弾性流体潤滑(EHL)油膜の摩擦は 玉軸受でもころ軸受でも、軸受の中の潤滑状態は起動の際には境界潤滑状態ですが、回転を始めるとEHL状態、または荷重の小さい場合には、流体潤滑状態になることもあります。 EHL油膜や流体潤滑油膜による流体の粘性摩擦抵抗の大きさも、複雑ではあるが計算によって求めることができます3,5)。 ●摩擦モーメントの発生原因は 転がり軸受の摩擦モーメントの発生原因には、次に挙げるいろいろのものがあります。
以上のような軸受の中のいろいろな摩擦抵抗を合成したものが軸受の摩擦モーメントになります。そして、軸受の潤滑、荷重、回転速度という使用条件に応じて、それぞれの潤滑状態が境界潤滑、EHL、流体潤滑の間で変化し、摩擦力の大きさもそれに応じた値をとります。したがって、軸受の摩擦モーメントを計算で求めるのには複雑な手続きを必要とする場合が多いです。 ●摩擦モーメントを概算するには 転がり軸受の摩擦モーメントは、滑り軸受と対比するために、次の式で表わされます。 ![]() 中速回転で、軸受荷重Pが軸受の基本動定格荷重Cの10%以上の場合、摩擦係数fは表1のような値になります。これによって、軸受の運動摩擦モーメントMを概算することができます。
●摩擦モーメントの特性は 転がり軸受の摩擦モーメントを求めるためには、いろいろな実験式が提案されています。いずれの場合にも、軸受の摩擦モーメントは軸受の荷重によって変化する固体摩擦項と、回転速度によって変わる流体摩擦項の和によって構成される式が多いです6)。 そして、低速・高荷重では固体摩擦項、高速・低荷重では流体摩擦項の大きさが優位を占めるようになります。 滑り軸受と比べて、転がり軸受の摩擦の特長は、起動摩擦と運動摩擦との差が小さいことと、低温から高温までの広い温度範囲で、摩擦の大きさの差が小さいことです。 |
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