ID-S57 転がり軸受の温度上昇はどのようにして決まるのか
 
 
 転がり軸受の温度上昇は、できるだけ低い方がよいとされています。では、軸受の温度上昇はどのようにして決まるのでしょうか。
 
 一般の転がり軸受は、800〜850℃から焼入れした後に150〜200℃で焼戻されています。従って、軸受の使用温度が100℃を越えると、材料の組織変化のために寸法の変化がおこることがあります。また、普通に使われている潤滑油や潤滑グリースは、100℃を越えると、酸化による劣化が急速にすすむようになります。
 
 これらのことから、軸受の温度は100℃以下で使うことが望ましいことになります。
 
 一般に、軸受温度という場合、容易に測定ができる軸受の最高温度ということで、軸受外輪外径の中央部表面の温度をいうことが多いです。
 
●軸受の摩擦が熱に変わる
 軸受が回転すると、回転に抵抗する摩擦モーメントMが発生します。このMは、実験によると、軸受荷重に比例する固定摩擦項MLと軸受の回転速度に比例する流体摩擦項MVの和として表わされることが多いです。
 
 例えば1)
 M=ML+MV
  =f1mF+f0m30n)2/3×10-8 (kgf-mm)
 
 ただし、0n≧1999-2003の場合。ここで、f1:軸受形式と軸受荷重F(kgf)による係数、dm:軸受の転動体のピッチ円径(mm)=(d+D)/2、d:軸受内径、D:軸受外径、f0:軸受形式と潤滑法による係数、0:潤滑油の動粘度(1cSt=1mm2 /s)、n:回転速度(rpm)です。
 
 機械的な仕事を熱に換算するときに使う熱の仕事当量をJとすると、摩擦モーメントMによって単位時間に軸受に発生する熱量H(Kcal/min)は、
 
 H=J・2πnM
になります。
 
 すなわち、軸受の回転に対する抵抗モーメントは熱に変わります。そして、内輪、外輪、転動体、保持器の相対運動する接触表面に発生した摩擦による熱は、一部は潤滑剤と空気によって、一部は伝導、対流、輻射によって軸受の外に放散されます。
 
●温度上昇は潤滑法によって変る
 グリース潤滑、油浴潤滑、オイルミスト潤滑、強制循環潤滑など、潤滑法を変えて転がり軸受で支えられたスピンドルの軸受温度上昇を測定すると図1のようになります2)。図の横軸は、軸受が単位時間に行う仕事量Mn(Nm×rpm)であり、軸受に発生する単位時間当りの熱量に比例する量です。
 

 
図1 いろいろの潤滑法と軸受の温度上昇
 
 
 グリース潤滑、油浴潤滑のように潤滑剤が軸受のハウジングの外へ移動しない潤滑法では、軸受の温度上昇はMnに正比例して大きくなります。
 
 それに対して、滴下潤滑、オイルミスト潤滑、循環潤滑のように、潤滑油または空気が軸受の中を通り抜けて軸受に発生した熱を軸受の外へ持ち出すような潤滑法では、軸受の温度上昇はMnに正比例する直線からはずれて、小さい温度上昇になっています。
 
 すなわち、軸受の使用条件によって軸受の温度上昇が大きくなり過ぎる場合には、図2のように、潤滑油の供給量を増やして、軸受の中を貫通させ、油を熱交換の媒体として使い、冷却作用も行わせて軸受の温度上昇を小さくおさえます。
 

 
図2 給油量と軸受の温度上昇
 
 
 油量Aで温度上昇が最低になりますが、焼付きの危険があるので、安全をみて油量A以上で使われることが多いです。
 
●軸受の中の熱の伝わり方は
 軸受の中の摩擦仕事が熱に変わってから、その熱はどのように伝わって軸受の温度上昇を決めるのでしょうか。
 
 実験によると3)、軸受の中に発生した熱は、(1)回転軸およびハウジングから伝導、対流、輻射によって移動するものと、(2)軸受の中を通過する潤滑油または空気によって熱交換され、軸受の外へ持ち出されるものによって移動し、熱の平衡が保たれることによって軸受の温度上昇が決まります。
 
 そして、(1)の熱伝達率KAは、
 KA=A(k1+k2n)
 
(2)の熱伝達率KLは、
 KL=εCG
 
で表わされ、軸受としての熱伝達率KB(Kcal/min・℃)は、
 
 K=KA+KL
 
となります。ここで、A:軸受の有効放熱面積、k1、k2:軸受まわりの構造によって変わる定数、n:回転速度、ε:油または空気への熱伝達効率、C:油または空気の比熱、G:油または空気の単位時間当り軸受貫通流量です。
 
●温度上昇は熱の逃げ方で変る
 軸受温度をtB、雰囲気の温度をtAとすると、軸受の温度上昇(tB−tA)は、
 
 (tB−tA)=H/K=H/(KA+KL
       =2πJnM/{A(k1+K2n)+εCG}
 
と表わされます。
 
 この式から、軸受の温度上昇を小さくするためには、Mを小さくし、Gを大きくすることが有効であることがわかります。
 
 そこで、空気の比熱はC=0.24Kcal/kgf・℃、油の比熱はC=0.45〜0.50Kcal/kgf・℃であるのに対して、油の比重は空気に比べて800〜900倍も大きいので、同じ体積では、比重の大きい油による軸受の冷却効果の方が大きいことがわかります。すなわち、オイルミスト潤滑やオイルエア潤滑に比べて、油による循環潤滑、オイルジェット潤滑、アンダーレース潤滑の方が冷却効果が大きいことになります。
 
●温度上昇と潤滑法の関係は
 いろいろの軸受の潤滑法を、摩擦モーメントM、軸受まわりの伝導・対流・輻射による熱伝達KA、軸受の中を通り抜ける油または空気による熱伝達KLの面からみて、軸受の温度上昇に及ぼす効果を表1にまとめました。

表1 いろいろの潤滑法の軸受温度上昇に対する効果
潤滑法グリース油浴はねかけ霧状滴下オイルミストオイルエア強制循環オイルジェットアンダーレース
軸受摩擦モーメントM
軸・ハウジングへの熱伝達KA
軸受を貫通する油・空気による熱伝達KL×××
 (効果) ◎:大 ○:普通 △:小 ×:なし
 
 
 すなわち、温度上昇を小さくするためには、油量を少なくして摩擦モーメントを小さくするような潤滑法であるグリース潤滑、オイルミスト潤滑、オイルエア潤滑を採用するか、油量を増すことによって摩擦モーメントが大きくなり、軸受を運転するための消費動力が大きくなっても、油によって強制冷却を行う循環潤滑、オイルジェット潤滑、アンダーレース潤滑を使うか、どちらかになります。それは、軸受の荷重および回転速度などの使用条件によって決めることになります。
 
 焼付き事故などに対する安全の面からは、後者の強制冷却を使う潤滑法が使われることが多いです。
「参考文献」
  1)W.Hampp:Walzlagerungen-Berechnungen und Gestaltung-, Springer Verlag (1971) S31.
  2)転がり軸受工学編集委員会編:転がり軸受工学、養賢堂(1975)P.124.
  3)曽田範宗:軸受、岩波全書(1964)P.245.
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1991.6 P38-39
 
 

 
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