ID-S59 転がり軸受を上手に使いこなす方法は
 
 
 軸受にはいろいろの種類があります。その中で、転がり軸受は形状、寸法から寿命の計算法にいたるまで、標準化が国際的にも進んでおり、世界の主要工業国の専門メーカで、互換性のある高精度の軸受が大量生産され、安価に流通しています。
 
 転がり軸受を上手に使いこなすための、軸受の選び方、特長の活かし方、間違い易い使い方などについて述べることとします。
 
●コスト・パフォーマンスで軸受を選ぶと
 軸受の種類を選ぶためには、軸受を使う機械の設計−生産−運転−保守から寿命に至るまでの生涯にわたって、軸受に関係して発生するコストを表1のように検討します1)。すなわち、軸受の種類を選ぶ考え方は、必要な機能をはたした上での価格当たりの性能−−コスト・パフォーマンスです。
 
表1 軸受の種類を選ぶための検討事項

 
 
 この面から、転がり軸受は内部諸元の詳細設計の必要がなく、生産は軸とハウジングの製作であり、保守はグリース潤滑で容易など有利であることが多いです。
 
●設計は軸受システムとして
 転がり軸受を使いこなすためには、(1)軸受の選定だけでなく、(2)潤滑システムの設計、(3)軸とハウジングの設計、(4)組立と保守の設計、すなわち軸受自身を選定することに加えて、軸受の周辺まで含めた“軸受システム”の設計が必要です。
 
 これらの設計が互に調和して、はじめて軸受は十分な機能を発揮します。転がり軸受システムの設計の基本的な手順を表2に示しました2)。この手順の中に、軸受を上手に使いこなすために必要な検討項目のすべてが含まれています。そして、これらの項目は、すべてチェックしなければなりません。
 
表2 転がり軸受のシステム設計の手順

 
 
●形式の選定は深溝玉軸受から出発
 軸受形式はいろいろあります。形式を選定する出発点は、図1に示すように、深溝玉軸受です3)。この玉軸受はラジアル荷重とアキシアル荷重の両方向の荷重を1個の軸受で受けることができる上に、シールまたはシールドを組み込み、用途に最適な潤滑グリースを必要量だけ封入した密封玉軸受もあります。さらに、最も高い精度の軸受もできます。
 

 
図1 転がり軸受の形式の選定
 
 
 そのため、現在の日本の軸受生産個数のうち約60%が深溝玉軸受です。
 
●メカトロニクスのメカには制御され易さが
 転がり軸受の特長は、その動的な特性にあります。それは、(1)起動摩擦と運動摩擦の大きさの差が少なく、(2)摩擦の大きさの絶対値が小さく、(3)低温から高温までの広い温度範囲にわたって、摩擦の大きさの変化が少なく、(4)予圧によって、軸受すきま(ガタ)を殺し、剛性を高めることができることです。
 
 予圧ができることは、転がり軸受の特長の一つです。すなわち、滑り軸受では軸と軸受との間に油膜を形成させることによって、軸受の機能が発揮されるので、軸受すきまが必ずあります。そして、このすきまは軸受のガタとして、軸の変位、軸受の音響・振動の原因になることがあります。
 
 そこで、図2のように、アキシアル荷重を受けることのできる1対の転がり軸受で回転軸を支え、ばねまたは間座によってアキシアル荷重を加えることによって軸受すきまを殺します。さらに軸受に加える力と軸受の変位が非線性であることを利用して、軸受の剛性を高めることもできます。
 

 
図2 転がり軸受の予圧法
 
 
 予圧は剛性を必要とする歯車軸や静かな運転が望まれるモータでは、必須の方法になっています。
 
 (1)〜(4)は、軸受の動的な特性に非線形性が少ないということです。したがって、センサとアクチュエータによって、軸系の動きを電子制御しようとするメカトロニクスの設計にとって、制御され易いメカにすることができます。
 
●転がり軸受は使い易い4)
 ・転がり軸受は、流体軸受に比べて、軸受の運転条件すなわち荷重、回転速度、雰囲気温度が変化しても、軸受の運転特性に変化が少ないというロバスト性があります。例えば、軸受の摩擦特性は流体軸受では運転条件で大きく変わるが、転がり軸受ではあまり変わらず、いわば鈍感であるといえます。
 
 ・回転精度の高い軸系が簡単にできます。転がり軸受は、それ自身高い寸法精度と回転精度を持っています。そのため、機械のメーカは比較的簡単な軸の外径面とハウジングの内径面の円筒加工だけを行い、転がり軸受を取り付けることによって、軸心の振れ精度の良い回転系を容易に実現できます。
 
 ・低温、高温、真空、放射線など極超環境の中でも使うことのできる軸受があります。これは流体軸受ではなかなか得られない特長です。
 
 ・専用の軸受もあります。自動車に使われる水ポンプ用軸受、クラッチ・レリーズ用軸受、車軸用ハブ軸受やVTR、FDD、HDDに使われる軸付軸受、建設機械用の旋回輪軸受、鉄道車両の車軸用のRCC軸受、RCT軸受など、機械の軸受まわりの部品も兼ねる専用の軸受ユニットがあり、機械のメーカに使い易さを提供しています。図3に、自動車のハブ軸受の例を示しました。
 

 
図3 自動車前輪用ハブ軸受
 
 
 ・軸受の寿命は予測ができます。転がり軸受の寿命は、低荷重では潤滑グリースの寿命で、高荷重では軸受材料の転がり疲れ寿命で決まります。そして、グリース寿命も転がり疲れ寿命も、蓄積された膨大な実験データから、軸受の運転条件が与えられれば、計算によって予測が可能になっています。さらに、転がり疲れ寿命は90%から99%までの信頼度に対しても計算ができるようになっています。
 
 機械および機械部品の中で、その寿命まで計算できるのは、転がり軸受けのほかにはありません。
 
●間違い易い転がり軸受の使い方
 ・軸受の取付け誤差はこわい。使い易さのところで、回転精度の高い軸系が簡単にできると述べました。しかし、軸受だけ高い精度等級のものを使っても、軸とハウジングの製作精度と軸受の取付け精度が、少なくとも軸受の精度と同等でなければ、良い回転精度をもった軸系にはなりません。これは、よくおこる間違いです。とくに、軸受のはめあい面にある加工バリやコンタミネーションのために、軸受の内輪または外輪が軸心に対して傾いて取付けられると、軸心の振れ、音響・振動、摩擦、発熱、寿命に悪い影響がでます。
 
 ・軸とハウジングの形状が軸受の軌道に転写されます。良い軸受を正しく取付けても、スプラインのある軸や補強されたリブのあるハウジングに、軸受をしまりばめすると、軸受の軌道に軸やハウジングの変形した形状が転写され多角形に変形することがあります。すると、結果としては、悪い軸受を使うのと同じことになります。
 
 ・コンタミネーションに注意。軸受メーカから出荷された軸受はよく洗浄され、清浄になっています。とくに、高精度の小径・ミニアチュア軸受はクリーン・ルームの中で組立て、包装されるのが普通です。それは、軸受の精度が、コンタミネーションの大きさと同じ程度になるからです。そこで、機械のメーカで軸受を機械に組み込むときに、軸受の中にコンタミネーションが混入しないような注意が必要になります。
「参考文献」
  1)岡本純三・角田和雄:転がり軸受−その特性と実用設計−(1981)幸書房、p.6
  2)岡本・角田:同上、p.18
  3)岡本・角田:同上、p.39
  4)角田和雄:回転体に転がり軸受を上手に使いこなす方法、日本機械学会第681回講習会教材、(1988-10) p.87
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1991.8 P38-39
 
 

 
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