ID-S61 高温・低温における転がり軸受について
 
 
●高温に対しては
 一般の軸受鋼を使った転がり軸受は、焼入れ後に160〜180℃で焼戻されているので、150℃以上の軸受温度になると、硬さの低下と寸法変化をおこすことがあります。そこで、これ以上の高温になる場合には、耐熱鋼を使い、高温における硬さを確保する必要があります。
 
 現在、軸受温度300℃程度までは、モリブデン系耐熱鋼M-50が航空ジェット・エンジンの主軸受の材料として実用されています。この程度の温度までは、潤滑油として合成油が使えます。
 
 さらに500℃程度の高温まで、しかも10-5Paの真空の中で10,000rpmという高速で使われている内径6〜10mmの玉軸受があります。図1に示すような、CTスキャナーの高出力X線発生管の回転陽極を支える軸受です1)
 

 
図1 回転陽極X線管球
 
 
 この軸受では、高温と真空のために、液体の潤滑油は使えません。そこで、潤滑剤としては、玉および軌道の表面に軟質金属である銀または鉛の薄膜をいろいろな方法でコーティングし、その潤滑効果を利用します。
 
 軸受材料には、高温硬さの大きい高速度工具鋼SKH-4が使われます。
 
 500℃以上の高温では、ナトリウムや亜鉛の溶融金属の中で回転する軸受があります。この場合には、コバルトCoベース合金のステライト6やセラミックスが軸受材料として使われることがあります。潤滑は溶融金属そのものが、その役割をはたします。
 
 将来は、セラミック軸受が高温用として有望です。しかし、現状では、500℃以上で長時間使える固体潤滑剤とその潤滑法が問題です。
 
●低温に対しては
 −42℃のLPG、−162℃のLNG、−183℃の液体酸素、−196℃の液体窒素、−253℃の液体水素など、液化された気体のポンプに軸受が使われています。
 
 日本のロケット・エンジンは液体燃料を使い、液体酸素と液体水素を混合して、燃焼させています。それぞれの燃料を燃焼室まで送るのに、図2のようなターボポンプが使われ、そこに玉軸受が活躍しています2)
 

 
図2 液体水素ターボポンプ(試作研究中)
 
 
 これらの超低温では、油は潤滑剤として使えないので、保持器にテフロンなどの自己潤滑性のある材料をガラス繊維で補強して使い、玉との滑り接触によって発生するその摩耗粉を潤滑剤にします。
 
 軸受材料そのものは、−253℃程度の超低温まで問題なく使えます。しかし、低温から常温に戻したときに、空気中の水蒸気が結露します。その水分のために、普通に使われている軸受鋼では、錆が発生します。そのため、低温で使われる軸受には、マルテンサイト系ステンレス鋼440Cが標準の軸受材料になっています。
「参考文献」
  1) 土肥元達・大森基次:月間トライボロジ、No.5(1988)P.55
  2) 野坂正隆:月間トライボロジ、No.4(1987)P.4
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1990.9 P24-25
 
 

 
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