ID-S64 ベアリングはどこまで使えるようになっているのか
 
 
 転がり軸受、ボールねじ、転がり直動案内などベアリングは、いまどこまで使うことができるようになっているのでしょうか。
 
 形式、大きさ、機能、運転条件など、ベアリングの一番についての話を述べましょう。
 
●一番多く使われる転がり軸受の形式は
 転がり軸受には、いろいろの形式の軸受があります。日本で生産されている軸受の数を調べると表1のようになります。すなわち、数の上ではラジアル玉軸受、針状ころ軸受、円すいころ軸受の3つの形式で全体の約90%を占めます。その他の形式の軸受は、それぞれ数%の程度です。
 
表1 最もよく使われる軸受形式

 
 
 そして、ラジアル玉軸受の80%以上は深溝玉軸受です。1個の軸受でラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重を受けることができ、しかも標準の内径、外径、幅の寸法で、予め潤滑グリースを封入した密封玉軸受があることが、この形式を一層使い易いものにしています。その上、後述のように、一番精度の高い軸受があるのもラジアル玉軸受です。
 
●一番小さい寸法のベアリングは
転がり軸受の形式ごとに、一番小さい主要寸法を表2に示しました。一番小さい寸法をもつ軸受形式は、深溝玉軸受の内径1mm×外径3mm×幅1mmです。最近の機械の軽薄短小化のために、ミニアチュア玉軸受の需要が増えています。
 
表2 最も小さい軸受主要寸法

 
 
ボールねじでは、ねじ軸の直径2mm、ねじ軸の1回転でナットの進む距離を示すリード1mm、そのナット外径6.5mmが一番小さいものです。
 
リニア・ボールベアリングで一番小さいのは、内接円径3mm×外径7mm×幅10mmです。
 
リニア・ガイドでは、レール高さ5.5mm×幅9mmでベアリング組立て高さ6.5mm×幅15mmのものがあります。
 
転動体で一番小さいものを表3に示した。一番小さいのは玉直径0.3mmである。仁丹の銀玉の直径が2.5mmであるのに比べて、如何に小さいかがわかります。
 
●一番大きい寸法のベアリングは
転がり軸受では、旋回輪軸受と呼ばれる玉軸受で外径5.7m、重量17t、原子炉“もんじゅ”の遮蔽プラグに使われています。海外の軸受メーカのカタログには、一体形で外径8m、軌道輪を分割して製造し、組立てた外径15mの転がり軸受の例があります。
 
ボールねじでは、ねじ軸外径300mm×長さ16m、ナット外径420mmがあります。その重量は11トンもあり、製鉄所の高炉に使われています。
 
リニア・ガイドではベアリングの組立て高さ150mm×幅290mmがある。レールは継いで使うことができるので、いくらでも長くすることができます。
 
転動体で一番大きいものを表3に示した。直径114mmの玉が一番大きいです。
 
表3 最小と最大の転動体寸法

 
 
●一番精度の良いベアリングは
転がり軸受の中で一番高い回転精度をもつのはラジアル玉軸受です。アメリカ軸受製造業協会AFBMA規格の計器用精密軸受Class 9Pが一番高い精度です。この規格に従った軸受は日本でも製られています。それは表4のように軌道輪の振れ精度が1.3μm以下です。玉軸受で支えられたスピンドルの軸心の振れは、0.2μm以下にできます。
 
表4 ラジアル玉軸受の最も良い回転精度
(ABEC規格−9P級)


 
 
動圧グループ軸受静圧空気軸受を使ったスピンドルの軸心の振れは0.05μm以下にすることができます。
 
ボールねじの動的精度は、ねじ軸1回転に対してナットが軸方向に進む距離を示すリードの変動誤差(よろめき)で表されます。一番高いリード精度はCO級で、ねじ部の有効長さ内で任意に選んだ300mmに対して、リードの変動は3.5μm以下、ねじ軸の1回転内で任意の回転角に対応するリードの変動は2.5μm以下です。
 
リニア・ガイドでは、動的精度はレールに組合わされたベアリング移動テーブルをレール長手方向に移動させたときの、レール基準面に対する移動テーブルの変動で表わされる。この走り平行度の一番高い精度はP3級で、レール全長800mmで2μm以内、3150mmで6μm以内です。
 
転動体の一番高い精度を表5に示しました。一番高い精度は玉の等級3で、直径0.3〜12mmについて真球度0.08μm以下、直径の相互差0.13μm以下、表面粗さ0.012μmRa以下です。
 
表5 最も精度の高い転動体

 
 
●一番高速で使われているベアリングは
転がり軸受の高速回転については、回転角速度の大きい軸受と周速の大きい軸受の2つの考え方があります。
 
 回転角速度の大きな軸受としては、内径3.175mm×外径6.350mm×幅2.380mmの歯科用スピンドルの深溝玉軸受が50×104rpmで使われています。
 
 高周速の軸受としては、航空ジェットエンジンの主軸受に使われる玉軸受と円筒ころ軸受がdn値2.2×106で実用化され、dn値3×106が実験室で実現しています。ここでd:軸受内径mm、n:軸受回転速度rpmです。この主軸受の軸受内径は120〜250mmなので、dn値3×106は内径面周速で160m/s程度になります。
 
 転がり軸受の高速回転限界は、軸受材料の遠心力による破壊によって決まります。
 
ボールねじでは、ナットの送り速度はねじ軸の回転速度とリードの積で決まり、NC工作機械では24m/min、パンチプレスやロボットでは90m/minで使われています。ボールねじのリードは軸径の2倍の寸法まで製られており、Dmn値は15×104まで使われています。ここで、Dm:ボール中心径mm、n:回転速度rpmです。
 
 逆に、一番低い送りができるボールねじには、ねじ軸径40mmで、リード2mmのものがあります。
 
●一番高い温度で使われるベアリングは
 航空ジェットエンジンの主軸受では玉軸受と円筒ころ軸受が軸受温度190〜220℃で、CTスキャナのX線発生用管球の中の真空中で軸受温度300〜500℃の玉軸受が使われています。
 
●一番低い温度で使われるベアリングは
 日本の宇宙ロケットの液体燃料用ポンプでは、−253℃の液体水素の中で、玉軸受と円筒ころ軸受が使われています。

「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1992.2 P44-45
 
 

 
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