ID-S65 機械設計の中での転がり軸受の設計プロセスは
 
 
 複雑な働きをする機械全体を設計するプロセスの中で、その運動する部分を支えながら、案内する転がり軸受とそのトライボロジーの設計プロセスを図1に示しました。
 

 
図1 機械設計のプロセス
 
 
 機械故障は、その運動する部分である軸受が原因になることが多いので、機械設計の早い段階で、機械要素の1つである転がり軸受についても、徹底的な機能保証と信頼性保証のための試験が行なわれるのが普通になっています。
 
 そして、機械は概念設計、機能設計、生産設計の段階を経て、量産されます。量産された機械はユーザーによるフィールド実用情報に基づいて改善され、それが機械要素である軸受にまで及ぶこともあります。
 
●転がり軸受の設計プロセスは
 転がり軸受は滑り軸受と違って、いろいろの軸受形式と寸法の軸受が、国際的にも共通の規格で生産され、市場に流通しています。したがって、転がり軸受は「設計」するよりも、機械の目的に合わせて、いろいろな種類のものの中から「選定」することになります。
 
 そして、その設計は「軸受の選定」だけでなく、「潤滑システム」、「軸とハウジング」、「組立てと保守」までを含めた「軸受システムの設計」で、はじめて完全なものになります1)
 
 さらに、転がり軸受には、いろいろの機械に使われ、信頼度の高い運転実例を集めた「使用実績データベース」が数多く蓄積されている。そして、設計された軸受システムがこの使用実績データベースの範囲内にあれば、直ちに信頼度の高い設計として、実用が可能です。
 
 もし、軸受の荷重、回転速度、温度、潤滑、雰囲気などが、新しい未経験の使用条件の場合には、実際の機械をシミュレートした実験によって、その軸受システムの機能および信頼性についての保証試験を行い、機械の要求を満足するかどうかを確認します。それが不満足の場合には、軸受システムに、新しいトライボロジー設計を導入して改善を行います。そのプロセスを図2に示しました。
 

 
図2 転がり軸受システムの設計プロセス
 
 
 このようにして、転がり軸受の技術進歩がおこるのです。
 
●軸受の故障と寿命のちがい
 機械の故障は、その軸受が原因であることが多いです。そして、一般に機械の稼働の一生の間におこる故障率は、図3に示すような経過をたどるとされています2)
 

 
図3 機械の故障発生率
 
 
 初期故障は機械システムの幼児死が発生する期間です。ならし運転によって故障率が減少する特性があります。偶発故障は正常な運転期間で、偶然におこる故障によって一定の故障率を示します。摩耗故障は機械の老化現象によって故障が多発することであり、その結果、遂に機械は寿命に到達します。
 
 この機械システムの一生涯の間で、その転がり軸受の故障については、初期故障と偶発故障の発生率を零に近づけるよう軸受の選定、潤滑、密封、軸とハウジングの設計・製作、取扱い・取付けを適切にする方策がたてられ、その結果を機械の機能設計と生産設計の段階で、実験によって確認してから量産化することも行なわれています。
 
 したがって、転がり軸受では「故障」は何らかの対策を施すことによって発生を防ぐことができるものであり、どうしても発生を防ぐことのできない「寿命」と区別しています。
 
 転がり軸受における、いろいろな種類の故障と寿命を表1に示しました。
 
表1 転がり軸受の故障と寿命

 
 
●転がり軸受の寿命は機械の設計寿命より長く
 転がり軸受を長期間使っておこる寿命には、転がり疲れ寿命と機能寿命の2つがあります。前者は、転動体と軌道との間に発生する転がり接触応力が原因となっておこる材料の疲れです。疲れによるクラックは、動的なせん断応力が最大になる表面より下、内部に発生し、それが表面まで伝播して薄片状のフレーキングになって表面から脱落します。そのため、軸受の音と振動が大きくなり、精度も劣化します。しかし、転がり接触面の潤滑が悪く、油膜の形成が十分でない場合には、疲れクラックは転がり接触表面に発生し、その発生に至るまでの時間すなわち寿命も、内部起点フレーキングに比べて著しく短く、数十分の一にもなります。
 
 軸受の機能寿命は、転動体と軌道の表面の摩耗による面荒れが原因になっておこります。すなわち、表面粗さが大きくなることによって、軸受の摩擦モーメント、音響、振動、軸心の振れ精度、軸受温度などが大きくなり、その軸受を使っている機械が、もはや機械としての機能をはたせなくなるという寿命です。そして、転がり軸受の摩耗寿命は機械の軸受使用部位毎に、或る程度、計算によって予測することができるようになっています3)
 
 また、軸受の中に予め潤滑グリースを封入し、シールまたはシールドなど密封装置を軸受に装着した密封軸受が数多く使われています。そして、これらの軸受の寿命は封入された潤滑グリースの寿命で決められることが多いです。このグリース寿命も計算によって予測することができるようになっています4)
 
 そして、機械の設計寿命に対して、そこに使われる転がり軸受の寿命の方が長くなるように設計し、それを信頼性試験によって確かめてから量産にはいることも行なわれるようになってきました。
 
●どうしても故障事故をおこさないために
 いろいろな機械の中には、故障事故によって機械停止を絶対におこしてはならないものもあります。例えば、航空機、鉄道車両、公害防止機械などでは、前述の初期故障および偶発故障がおこらないような軸受システム設計をした上で、稼働運転中の軸受に、温度、振動などのセンサをつけたり、潤滑剤や摩耗粉を分析して、その状態を常時モニターすることによって、軸受における異常を事前に予知することも実用化されています。
「参考文献」
  1)岡本純三・角田和雄:転がり軸受(第2版)、幸書房(1992)P.18
  2)日本機械学会:機械工学便覧 B1、(1987)P.58
  3)岡本・角田:ibid. P.128
Eschmann, Hasbargen, Weigand:Die Walzlagerpraxis, 2Auflage, R.Oldenbourg (1978) S.183
  4)日本精工:転がり軸受カタログPr. No.140 (1991) A107
「出典」
ベアリングQ&A 月刊トライボロジ1992.3 P30-31
 
 

 
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