ID-S66 海外におけるオイルシールの技術動向について 1.オイルシールの規格 オイルシールは主要ユーザーである自動車産業の活発な欧米、日本で改良・開発が盛んに行われています。その規格は、アメリカではSAE、ドイツではDIN規格などで、日本ではJIS B 2402で定められているが(表1)、一般に使用されるオイルシールは使用条件や取付方法などにより数多くあり、それぞれの規格では標準形状、標準条件を定める程度となっています。 ![]() 密封流体のにじみ出し程度の漏れは許容している規格が多いが、近年の信頼性向上のニーズからも実際上は漏れが許容されることはほとんどありません。 2.海外の技術動向 (1)欧州 欧州におけるオイルシールは、発祥の地ドイツを中心に研究・開発が活発に行われています。アウトバーンに代表される高速道路が発達していることからも、欧州では高速度用オイルシールが主体となっています。 (1)シール形状 駆動系およびシャシ系の代表的なシール形状を見ると(図1)、外部ダストの多少に関わらずダストリップ付シールが大半だが、日本では外部ダストの多いハブなどの使用箇所ではサイドリップ付シールを使うのに対して、ドイツでは、舗装率が高く日本ほど外部ダストの影響を考慮しなくてもよいことから、そうした形状のものはほとんどありません。 ![]() 図1 シール形状比較(日欧) また、リップ形状は高速走行による摺動発熱を抑えられるような低トルク形状が多用されています。この低トルク形状リップは、シール発熱の低減だけでなく寿命延長にも効力を発揮することから、日本でも採用が進んでいます。 (2)シール材料 オイルシール用ゴム材料は以前はニトリルゴムが主体だったが、高速化が早くから進展したことにより、アクリルゴム(ACM)、ふっ素ゴム(FKM)に移行し、近年は特に耐熱性に優れるFKM材が主流となっています。材料の性質として、FKM材に次いで耐熱性のよいシリコンゴム(VMQ)は引張強さ・引裂抵抗が他の材料に比べて小さいため(表2)、シールの軸装着時にリップ傷が付きやすいなどの欠点があり、欧州ではほとんど使われていません。日本では以前、エンジン用オイルシールでVMQ材が多用されていたが、現在では信頼性向上からFKM材が使われることが多いです。 ![]() (2)北米 アメリカでは近年まで、エンジンシールではひも状のジュートシール、バルブシステムではOリングなど様々なシールが使われていたが、日本車との競合から品質面での改善が進んだ結果、オイルシールも日本や欧州と同様の仕様のものが使われはじめています。 (1)シール形状 日欧と大きく異なる形状ではないが、周辺機器を取り込んだユニット化が進んでいる点が特徴的です。シャシ系に使用されるユニタイズドシールの一例を見ると(図2)、スリーブ付とすることにより相手軸の加工コストを低減するとともに、メンテナンスを容易にしています。他にもユニット化によるトータルコストダウンを目的に、エンジンシール、バルブステムシールなど、ユニット化やパッケージ化の検討が活発に行われています。日本でも、リテーナー一体型オイルシール(図3)などで一部、ユニット化が始まっており、今後、活発化すると見られています。
(2)シール材料 欧州と同様にNBR材が主体だったが、近年は信頼性向上から急速にFKM材に移行してきています。エンジンシール関係ではほぼ完全に切り換わっているが、駆動系およびシャシ系でもFKM材への移行が進展、ロング・メンテナンス化や耐久性向上を目的として今後さらに加速化されるものと見られています。ただし、ハイポイドギヤオイルなどFKM材で対応できないオイルもあり、今後はそれらの油に耐性のあるFKM材の開発が求められています。 オイルシールが現在の形となってからほぼ半世紀を経て、世界各国でほぼ同じ仕様の形状・材料となりつつあります。信頼性向上などオイルシールへの要求性能に対して、研究・開発が世界的に進められなければならない一方で、アジアをはじめとする現地生産の進展にともない、シール材料についても現地調達または最適地調達に対応しなければならない中で、その国の技術力に応じたシール材料の仕様なども考慮しなければならない状況となっています。 「出典」 |