ID-034 舶用潤滑油について |
舶用潤滑油とは、船舶の運航に必要なすべての潤滑油、すなわちエンジン油、油圧作動油、タービン油、空気圧縮機油などが含まれますが、一般的には主機関及び発電機用機関の潤滑油(ディーゼルエンジン油)をいいます。 主機関はほとんどがディーゼルエンジンですが、LNG船などごく一部には蒸気タービン機関が採用されています。船舶の規模・用途によって数々の形式・規模のエンジンがありますが、大きくはつぎの3種類に分類されます。 |
1) 高速エンジン 2) 中速エンジン 3) 低速エンジン |
1200rpm以上 約300〜1200rpm 約60〜300rpm |
3〜200kW/cyl(4〜280PS/cyl) 〜2010kW/cyl(〜2730PS/cyl) 〜5710kW/cyl(〜7760PS/cyl) |
それぞれのエンジンの特徴を簡単に述べますと |
|
(1)高速エンジン; | 4サイクル陸上ディーゼルエンジンとほぼ同一で、燃料も軽油またはA重油を使用します。小型船や沿岸用船舶の主機関あるいは発電機用エンジンとして使用されています。 |
(2)中速エンジン; | 高速エンジン同様、トランクピストン型のエンジンですが、出力が大きいため、ピストンは油圧冷却を行っているのが特徴です。大出力を得るためにシリンダーはV型の配列がとられた機種が多くなっています。燃料はC重油が使用されています。中・大型フェリーや高速貨物船などの主機関や、より大きい船舶の発電機用として使用されます。 潤滑油は酸中和能力が高いシリンダーシステム兼用油が使用されます。 |
(3)低速エンジン; | 中・高速エンジンとは全く異なった形式のエンジンで「クロスヘッド型」と呼ばれる2サイクルエンジンが主体です。簡単な構造図を図1に示します。 ピストンの直径が大きく、1シリンダあたりの出力が大きいため、動力はクロスヘッドを介してクランク軸に伝えられます。また、シリンダーには注油孔が4〜8個、円周に均等に設けられ、注油器によって給油されます。油がライナー面に広がりやすいように、注油孔から斜め下に溝が刻まれています。シリンダー部分とクランク部分は分離構成されており、ピストンロッドは「スタフィングボックス」と呼ばれる機構の中を往復動します。この機構は、シリンダー内の燃焼残さ物や潤滑残留物がクランク室へ侵入しないようにロッドの付着物を掻き落とし、シールするようになっています。 エンジンは、従来シリンダ直径の大型化により出力を上げてきましたが、近年はストロークを長くすることによって、エネルギーの効率的な回収を図っています。燃料は「ボンドC重油」と呼ばれる低品質燃料が使用され、タンカーやコンテナ船ばら積み船など、大型貨物船の主機関として使用されています。 潤滑油はシリンダーを潤滑するシリンダー専用油とクランク室を潤滑するシステム油の2種類が使用されます。 ほかに、4サイクル低速エンジンもあり、日本およびアジア地域の遠洋漁業船によく使用されています。特徴としては、信頼性が高く低コスト運転が可能なことです。4サイクルですが、シリンダー注油をおこなう機種もあります。 |
![]() 図1 低速エンジンの構造 |
|
舶用エンジン油は、JIS K2215 の舶用内燃機関用潤滑油として、1種から4種まで制定されていますが、3種、4種は船舶での実績が重要視されています。 |
JIS分類 | 区 分 | SAE粘度グレード | 全塩基価 |
---|---|---|---|
1種 2〜5号 | 無添加システム油 | 20・30・40・50 | 0 |
2種 2〜5号 | R&O型システム油 | 20・30・40・50 | 3 以下 |
3種 3〜5号 | シリンダー・システム兼用油 | 30・40・50 | 3 以上 |
4種 3〜5号 | シリンダー油 | 30・40・50 | 25以上 |
それぞれのエンジンに使用される潤滑油は、以下の特徴があります。 |
潤滑油の区分 | 粘度 | TBN | 特 徴 | |
---|---|---|---|---|
高 速 エ ン ジ ン |
シリンダーシステム 兼用油 (ハイスピード ディーゼル油) |
30 40 マルチ |
10 15 |
一般陸上用(トラック用)のディーゼル油が使用される。エンジンも小さいので一定時間使用後、定期的に更油される。 |
中 速 エ ン ジ ン |
シリンダーシステム 兼用油 (ヘビービューティー油) 【4サイクル用】 |
30 40 |
10 15 20 25 30 40 |
ピストンアンダークラウン部での熱負荷が大きいので熱安定性・酸化安定性が必要。燃焼残さ物が直接システム部に混入する為、酸中和能力と清浄分散能力が要求される。また、ロッカーアーム部では極圧性も要求される。高度な浄油装置を装備し循環清浄処理す
ることにより、品質の管理がされている。更油されることなく補給のみで長期間使用される。 全塩基価は燃料と運転過酷度に依存するが、概ねエンジンメーカーの推奨によることが多い。 |
低 速 エ ン ジ ン |
システム油 【2サイクル用】 |
30 40 |
5 10 |
軸受の潤滑のほか、ピストンアンダークラウンの冷却などを受け持つ。高出力のため、アンダークラウンの受熱量は大きく熱安定性・酸化安定性のほか、スラッジの分散能力も必要となる。この為清浄分散性能が付与されている。また、スカフィングボックスを通過した燃焼残さ物や潤滑残油分も混入するため、高度な浄油装置により循環清浄処理がおこなわれる。 システム油は補給のみで長期間使用される。 |
シリンダー専用油 【2サイクル用】 |
40 50 |
40 70 |
燃焼時に発生する亜硫酸等の酸性成分を速やかに中和する能力と燃焼残さ物を分散させ、ライナーやピストンリンググルーブへの堆積を防止し清浄に保つ能力が要求される。この為、多くのエンジンは70アルカリのシリンダー油を採用している。 また、高温・高圧の条件下で十分な油膜保持が要求されるため、熱安定性や酸化安定性と共に、油のひろがり性や極圧性能、耐圧性能が要求される。 |
《注》TBN;全塩基価。アルカリ価とも言われる。酸中和能力、清浄分散能力の指標となる。 |
|
○ | ライナーの下部には給気ポートがあり、ピストンが
下位近傍付近に来ると給気が燃焼ガスをライナー
上部の排気ポートへ押し出します。この時、給気
と排気が混合したり、排気が残留しない様に給気
に渦流を与えて、排気効率の向上を図っています。 |
○ | シリンダー部とシステム部は分離構成され、ピスト
ンロッドはスタフィングボックスを通り、クロス
ヘッドに結合されています。 ピストンロッドがスタフィングボックスを下降す る時、シリンダー部の燃焼残さ物やシリンダー油 の残油などは掻き落とされ、スタフィングドレン となって、タンクに回収されます。 |