ID-177冷凍機油の性能評価について

 フロンによるオゾン層破壊の問題から、エアコンや冷蔵庫に使用される冷媒は、R134a等の代替フロンに替りつつあります(冷蔵庫はほぼ終了、エアコンが置き換わりつつある)。
 この代替フロンは従来の鉱物油とは相溶性が悪く、新しい潤滑油の開発が必要となりましたが、カーエアコン、エアコン、冷蔵庫はそれぞれ要求特性が異なるため、各種の潤滑油が開発されています。【表−1】は、それらの製品に使用されている主な圧縮機の形式と冷媒、潤滑油について一覧表としたものです。

  主な圧縮機の形式 主たる冷媒 主たる潤滑油
家庭用冷蔵庫 レシプロ等 R134a ポリオールエステル
カーエアコン 斜板式,ロータリー,スクロール等 R134a ポリアルキレングリコール
エアコン ロータリー,スクロール等 R410A,
R407C
ポリオールエステル,
ポリビニルエーテル
ショーケース ロータリー,スクロール,ターボ等 R404A,
R507
ポリオールエステル
産業用冷凍機 レシプロ,スクリュー,スクロール,ターボ等 アンモニア ポリアルキレングリコール
R404A,
R507
ポリオールエステル

【表−1】冷凍機製品とそれに使用される主な冷媒と潤滑油

 冷凍機油としての性能評価方法について述べる前に、冷蔵庫を例にして、全体の構成を見ておきたいと思います(【図−1】)。カーエアコンやエアコンにおいても、基本的な構成に変わりはありません。
冷凍機油は、圧縮機の潤滑を行ないますが一部は、冷媒とともにミスト状になって凝縮器に流れていきます。冷媒は、凝縮器で冷却され液化しますが、この時冷媒との相溶性が悪いと潤滑油が分離・滞留し、冷媒の流れを妨げます。
 液化した冷媒は、膨張弁(キャピラリ) で膨張、蒸発器で外部より気化熱を吸収し再び気体となって圧縮機に戻っていきます。


【図−1】冷蔵庫の冷却

 このように、オイルにはまず、超低温から、かなりの高温まで絶えねばなりなせんし、冷媒との相溶性に優れていることが必要です。相溶性が悪いと、分離した油が滞留し冷媒の流れを妨げるだけでなく、冷却装置の構成効果を低下させたり、キャピラリで閉塞を起こすこともあります。
 【表−2】は、上記の各部分でどのような性能が求められるのか、そしてそれはどのような試験で評価されるのかをまとめたものです。

主な構成部品 主な役割 油に要求される性能 主な評価試験
(1)蒸発器
(エバポレータ)
冷媒が蒸発し、気化熱を外部から吸収する @低温流動性
A冷媒相溶性
Bワックス等の非析出性
@流動点
A冷媒溶解度、粘度
シールドチューブ
冷媒共存流動点
Bフロック点
(2)膨張弁
(キャピラリ)
高圧液状の冷媒を膨張弁から開放することにより、気化しやすくする @耐スラッジ性
A剪断安定性
B低温流動性
Cワックス非析出
@熱安定性
A(剪断安定性)
B,C;同上
(3)ドライヤー
(シリカゲル,合成ゼオライト)
冷媒中に存在する水分を捕捉し、氷化させない @水分吸収性
A粉化しないこと
B化学的安定性
水分吸収剤。油との評価ではなく、化学的安定性が要求される
(4)凝縮器
(コンデンサー)
高温気体状の冷媒を冷却し、液体に戻す @冷媒との高温相溶性 冷媒との相溶性
(5)圧縮機
(コンプレッサ)
気化している冷媒を圧縮して、液化しやすくする。一般に、密閉型圧縮機には、モーターが一体となって組込まれており、完全密封されている。(カーエアコンは動力をプーリーを介してエンジンから取る) @潤滑性,極圧性
A熱安定性,化学的安定性
B冷媒相溶性
Cモーター等材料適合性
D密閉型圧縮機では、電気絶縁性
@ファレックス試験,
高速四球,高圧摩擦試験
Aシールドチューブ加水分解安定性
B冷媒相溶性
Cシールドチューブ,
オートクレーブ
D絶縁破壊電圧,体積抵抗率

(注)冷媒は、上記構成部品の欄において、(5)の圧縮機から(4)凝縮機、(3)、(2)、(1)蒸発器へと流れ、再び(5)の圧縮機に戻ります。

【表−2】冷凍機器の構成と潤滑油に要求される性能とその評価方法

 このほか、冷凍機油は一般性状、組成分析、加工や組立時に使用される潤滑油類とのコンタミ溶解性の試験が行われます。
 また、オゾン層を破壊しにくい代替フロン冷媒も地球温暖化の原因であるとして、欧州等では、CO2やアンモニアを冷媒とした、あるいはイソブタン等の炭化水素系の自然冷媒の開発・製品化も進んでおり、日本でもイソブタン冷媒を用いた冷蔵庫やCO2冷媒による家庭用給湯機が上市されはじめました。環境対応の点から、冷媒とそれに対応する潤滑油はまだ変わっていくのではないかと思われます。




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