ID-S30 すべり軸受と転がり軸受はどう違うのか エンジン用軸受には何故すべり軸受が使われるのでしょうか。 エンジンにすべり軸受が使われる第1の理由は、組付け性の良さにあります。 クランク軸はエンジンの排気量が増加するにつれ、そのクランクピン数も増加し、配列も複雑になります。そのためフルジャーナル(360度円筒)を前提としたころがり軸受は組付けることができません。その点図1に示す、すべり軸受は判割りタイプにすることができ、複雑なクランク軸への組付けもなんら問題になりません。さらにスペース上の利点があります。一般のガソリンエンジンで使われる軸受の厚さは1.5mm〜2.0mmであり、設計的にコンパクトになります。 ![]() 図1 すべり軸受 第2は軸受の耐荷重能(負荷容量)と寿命にあります。 エンジン軸受に加わる荷重は、図2に示すクランク軸の回転角度によって大きく変化する変動荷重です。さらに低速回転では爆発による衝撃荷重が軸受にかかります。変動荷重・衝撃荷重はころがり軸受にとっては大変厳しい荷重であり、軸受損傷につながりやすいですが、すべり軸受にとっては影響を受けない荷重です。これは軸受に発生する耐荷重能の違いによるものです1)。 ![]() 図2 コンロッド軸受の荷重極線図 図3に示すようにすべり軸受の耐荷重能はくさび効果と絞り効果によって流体膜内に発生した油圧です。そのうち変動荷重、特に衝撃荷重は絞り効果を発生する源です2)。 ![]() 図3 すべり軸受の油膜圧力分布 すべり軸受にかかる荷重はこの油膜圧力によって支えられるため、理論的には軸と軸受とは接することはありません。従って摩耗量は非常にわずかで済み、比摩耗量は10-11〜10-13です。 比摩耗量10-13は40万km走行した時軸受の摩耗が厚さで10μm以下という程のわずかな摩耗量です。走行距離40万kmというとタクシーでも車両寿命とされる距離であり、車両が寿命でも軸受はまだまだ使える状態にあり、寿命は半永久的であるといえます。もっとも潤滑油の劣化が進むと図4に示すように軸受に腐食が発生し、腐食とともに摩耗も進行します3)。 ![]() 図4 軸受の腐食 このような状態での比摩耗量は10-11〜10-12になり、軸受の寿命は半減します。長寿命を図るにはオイルのメンテナンスと腐食しない軸受材料の選択が重要です。 第3は静粛性です。 ころがり軸受における転動体の接触面積は非常に小さく、応力的にも非常に高くなります。従って構成される流体膜の厚さは薄くなります。すべり軸受の最小流体油膜厚さと比較すると一桁ほど小さいです。このため振動を減衰させる能力に大きな違いが見られ、静粛性に関しては、すべり軸受が絶対有利です。さらにすべり軸受の流体膜厚さは、その軸受すき間を小さくすることによって、さらに厚くすることができ、静粛性をより要求される高級車指向のエンジンでは、軸受すき間を小さくし、流体膜をより厚くしています。そのため綿密な管理あるいは新しい軸受加工技術(条痕仕上げ)が導入されています。 第4に耐フレッティングコロージョン性です。 フレッティングコロージョンは、ごくわずかな振巾の往復動を行なう摩擦面に発生する摩耗であり、軸が回転せず振動している時によくみられる摩耗です。ころがり軸受における転動体と軌道面はヘルツ圧力下で接しているため、軸が回転せず振動のみの場合にフレッティングコロージョンがおきやすくなります。例えば自動車を輸出する場合など、船倉内に格納された自動車が連続して船舶エンジンの振動下に長くおかれるとフレッティングコロージョンがおきやすくなります。この点すべり軸受はより広い面で荷重を受けるためフレッティングコロージョンの発生はまったくみられません。 以上で述べたように、すべり軸受の有する諸特性は、流体潤滑膜の存在下において、十分に発揮される。まさにすべり軸受はエンジン用軸受として最適であるといえます。 |
「参考文献」 |
1) | 曽田範宗:軸受 |
2) | 岡部平八郎・木村好次:トライボロジー入門(12),機械の研究,第28巻第3号(1976) |
3) | 福岡辰彦:すべり軸受における摩耗・潤滑・第24巻・第11号(1979) |
「出典」 |